512 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/02/27 15:21:01.66 UCTjNuJ20 1/8

アニメ20話を見て改めて切なくなったので、一方さんに普通の日常を妄想で送らせてみる作戦に出てみた。
………自家発電じゃ何にも燃えなかった。しかし書いたものは書いたものでもったいないのでエコエコ。
そんな感じの緩い話です。6レスほど頂きます。

元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-24冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1298034529/
513 : 一方通行、パパになる 1/6[saga] - 2011/02/27 15:21:58.46 UCTjNuJ20 2/8




学園都市最強と恐れられる少年、一方通行は悩んでいた。


(最近、打ち止めの口がドンドン悪くなってる気がすンだが……)


打ち止めがそう至った経緯には無論自分の影響が大きいだろう。流石に自分の事だ、自覚はある。
だが口癖というのは直せと言われても意識してみてもなかなか治るものではなく、
自分が改善する事で打ち止めの口調を間接的に正すというのは難しく思えた(そもそも素直で優しげに喋る自分なんて気持ち悪くて出来やしない)。

ならば口調ではなく捻じれて来た彼女の性格から修正していった方が早い。
人間の性格というのは幼少期の環境や情操教育の精度に依存する。
実質0歳の打ち止めなら、与える教育や周囲の対応次第で十分改善の余地はある筈だ。

………と此処まで小難しい事を並び立てたが要は彼、一方通行は明確な戸籍を持たず真っ当な教育の一切を受けていない打ち止めに対し
自分が躾けてやらねばという年上としての責任感の様な物に駆られた訳である。
念の為に、躾と言えば聞こえが悪いものの彼の中では教育者と保護者の両面を兼ねた育成の概念である事を明記しておく。


「おはよう~、ってミサカはミサカは目を擦りながら挨拶してみ―――……あ、ご飯だ!」


さて、さっそく躾けを試す瞬間が来た。
起き掛けの打ち止めは着崩れた少女趣味満載のパジャマをそのままに寝室から直行、リビングに鎮座する食卓へと座り込んでいる。
カエル顔の持ち手が付いた彼女気に入りの専用フォークを右手に掲げ、
いざ炊飯器製ベーコンに齧り付かんとばかりに小さな口を無防備に目一杯開けているのだが。

ゴン!、と本気でなかったとしても同じ年頃の少年少女と比べれば些か力弱い一方通行のチョップが特徴的なアホ毛の上へと炸裂した。
少女はフォークを構えたまま暫くの間キョトンとした後、殴られた事にハッとしてか両手を頭上に急いで乗せ唇を尖らせて癇癪する。




514 : 一方通行、パパになる 2/6[saga] - 2011/02/27 15:22:29.69 UCTjNuJ20 3/8




「痛いよ何するの、ってミサカはミサカは突然のあなたの行動に嘘泣きしながら抗議してみたり!」

「突然じゃねェよ馬鹿、飯食うなら先に歯と顔洗って来いっていつも言ってるだろォが。あと頭抱えンならまずフォーク置け」


打ち止めは食べながら偶にボロボロと零している為着替えは後でも構わないが、
外見だけならば小学校中学年程度のナリをした少女が歯も顔も洗わず髪も梳かさずで朝食を貪っているというのは恐らく良くない事なのではないか。
一方通行にはクラスメイトとの縁が希薄だった為彼女と同じ年頃の少女の『普通』がどのようなものか知りようもないが、
まともな躾は多少始めるのが早過ぎても問題はないだろうと、とりあえずはそう判断する。

打ち止めの場合ならば他に躾けるべき事柄には物を口に含みながら喋るな、夜中に大声で騒ぐな、
人が寝ている時に布団に潜り込んでくるな、何でも嘘泣きで誤魔化そうとするな、などが挙げられる。
どれも世間一般では当然の常識だ。
いずれはキチンと学校などに通わせ、彼女を自分と違って社会に溶け込ませるつもりでいる一方通行からして見れば、
その『いずれ』の前に今から『当たり前』を学ばせておかなければいけないと強く感じるのだ。


「おいクソガキ、そこ座れ」


洗面所から戻って来るなり彼の目の前に座るよう促された打ち止めは、首を傾げながらも再び怒られぬよう大人しく席に着く。
一方、一方通行は幾つかの食器と何処から見つけて来たのか茹でる前の小豆やら里芋の煮つけなどを持ちだして


「オマエの箸、知識として理解しちゃいるが実際の使い方メチャクチャだろォが。丁度イイから今から練習すンぞ」

「えー、お腹すいた~!先にご飯食べようよぉ、ってミサカはミサカはぶー垂れてみたりぃ」

「ダァメですゥ。『ドキドキ☆お箸で何でも掴めるかな選手権』のミッションをクリアしないと食わせませンー」




515 : 一方通行、パパになる 3/6[saga] - 2011/02/27 15:23:25.88 UCTjNuJ20 4/8




「あなたってネーミングセンスないよね」と冷めた目線で毒のある台詞を吐かれた一方通行の、
ダメだコイツ……早く何とかしないと……という感情は至ってガチだ。
今からならまだ遅くはない。
外見だけでなく中身まで徹底的に指導し、打ち止めの社会デビューを成功させるのだ。マイ・フェア・レディ第一幕と同じ轍を踏んでなるものか。


「まずは小豆だ。一粒一粒箸で掴んで隣の皿に移動させろ」

「茹でてない生の小豆なんて食べる機会絶対ないから練習しなくても大丈夫だよ、ってミサカはミサカは早く朝飯食わせろよと催促してみる」

「日本人として生まれたからには箸作法の一つもマスターしねェと社会では通用しないに違いねェ。
 もしかしたら小学校の入学試験には『小豆掴み』も含まれてるかもしれねェからな」

「あなたが日本人とか言っても説得力ない……っていうか小学校にそんな試験ねぇよ先にオマエが常識学べ、ってミサカはミサカはツッコんでみたり」


さァ早くヤレと小豆の乗った皿を突き出してくる一方通行に
コイツ人の話聞いちゃいねえ。マジでやるまで朝飯食わせない気だ、と彼の本気に感涙(色んな意味で)した打ち止めは
子供用のピンク色の箸を手に掴んでそのまま小豆へと手を伸ばす。
カチカチと腕を震わせながらも何とか小豆を掴み取った彼女は、それを静かに隣の皿の上へと移動させる。
しかし。


「あ、ってミサカはミサカは思わず声を上げてみたり」


ポロリと落ちた小豆はコロコロとテーブルを転がり一方通行の前で止まった。
じぃー、とそれを見つめる彼は果たして何を考えているのだろう。
怒られるのだろうか。散々文句を言っておいてこんな事も出来ないのかと呆れられるのだろうか。
彼の反応に心臓を高ぶらせながら注目していた打ち止めは


「ほら、さっさと次ィやりやがれ。じゃねェと……ンぐ、モグモグ……失敗する度に小豆が減ってっちまうぞ……ゴクッ」


―――――――本当に何を考えているのだろう。
目の前に転がって来た小豆(生)をひょいとつまんでポリポリと食べながら脅迫してくる最強の姿は非常にシュールだ。
しかもその脅し文句が有効だと思っているのだろうか。


「何ボケーとしてンだよ。ほらほら……ポリポリ……小豆がドンドン無くなっていっちまいますよォ」

「………ウン……そうだね……、ってミサカはミサカは箸をそっと握ってみたり……」


ダメだコイツ……早く何とかしないとミサカの中の憧れの人像が音を立てながら崩れかねない……
まだギリギリ許容範囲内だったらしい打ち止めはゆっくりと箸を掴み取ると、
次こそ成功させてあの人の奇行を止めさせなければ!と静かな闘志を燃やしたのだった。


(――――――計画通り……)


幼い憧憬すら巧みに利用した外道、学園都市最高峰の頭脳を誇る一方通行の胸の内を打ち止めは未だ知らない。




516 : 一方通行、パパになる 4/6[saga] - 2011/02/27 15:24:56.98 UCTjNuJ20 5/8




何とか生の小豆を箸で掴んで移動させ……というミッションをクリアさせた打ち止めを待ち受けていたのは次なる強敵、里芋の煮っ転がしだった。
この里芋。ヨミカワが作っていた所を見た事が無いのだが、まさかあの短時間であの人が作ったのだろうか(芳川は始めから候補外である)。

ベクトル操作……恐ろしい子……状態の打ち止めの頭を、
小豆ミッションクリア良く出来ましたと掻き回しながら(撫でる勢いが強すぎて最早その表現が正しい)
一方通行は意気揚々と里芋の皿を打ち止めの前に置く。


「デデン!『ワクワク☆お箸で何でも出来るかな選手k……―――』アレ?さっきの名前と違くね……まァイイか、第二戦目は里芋の煮っ転がしだ!
 箸で掴んで口に入れて食え!良かったじゃねェか、成功すりゃようやく朝飯にありつけンぞ」


ダメだコイry)。打ち止めの心は静かな闘志にry)。
里芋のあのネバネバした妙な食感って苦手なんだよなぁ……という本心を覆す程に燃えた打ち止めは
「ミサカ、いっきまーす!!」と腕を振り上げて箸を構え宿敵・里芋を射殺さんとばかりに腕を振り下ろし――――――


「刺し箸はいけませンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!!!!」


注:刺し箸 ―― 箸で料理を突き刺して食べる事。忌み箸(お箸の禁)の一つである。

打ち止めの頭に今世紀最大のチョップが落下した。何とも誠に理不尽である。


「うぅ……ひっく……う、」


今度ばかりは嘘泣きでなく、ミサカ頑張ろうとしたのに……と本当に泣きだしそうに、
というか実際目尻に涙が溜まり始めた打ち止めの顎を一方通行は壊れ物を扱う様な仕草で触れると
もう一方の手の指先でゆっくりと彼女の涙を拭っていった。


「悪ィな……でも、これだけは分かってくれ。俺はいつだってオマエの為を思って言ってンだ……。
 オマエの事を思うとどうしても自制が効かねェ。ついつい勢い余ってオマエを傷つけちまう……本当に、すまねェ……」

「……あなた……――――――ううん、あなたは悪くないよ。
 悪いのはミサカを大事に思ってくれてるあなたの好意を否定しちゃったミサカの方だよ、
 ってミサカはミサカは再チャレンジしようと箸に手を伸ばしてみたり!」

「分かってくれたか!その意気だ、打ち止め!!」


そして、今度こそ里芋を掴み切った打ち止めがそれを口の中へと移動させようと腕をずらし――――――


「涙箸はいけませンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!!!!」


注:涙箸 ―― 箸先から汁を垂らす事。忌み箸(お箸の禁)の一ry)。




517 : 一方通行、パパになる 5/6[saga] - 2011/02/27 15:25:49.51 UCTjNuJ20 6/8




あべし!!打ち止めから世紀末の様な悲鳴が上がった。
脳天に一撃を喰らったショックか、箸先から里芋の煮汁どころか里芋本体が転がり落ちる。


「ふぇ……」


再び泣きだしそうになる打ち止めだったが、「オマエの事を思って」と言い切った彼の顔を思い出し
健気にも今度こそ完璧な箸作法でこの里芋を食べきるぞと再び箸を掴んでみせる。
まさかその彼が(自分が沈んだ風を見せればコイツもやる気を出すだろう、計画通ry)――――)と考えているなどとは思うまい。

思い出せ、打ち止め。箸作法の全てを知識の全てから掻き集めろ。
お前が統率するミサカネットワークは一体何の為に有る(恐らくこんな事の為ではない)。

握り箸、拝み箸、横箸、違い箸、突き箸、刺し箸、仏箸、合わせ箸、叩き箸、指し箸、持ち箸、受け箸、寄せ箸、空箸、迷い箸、移り箸、
せせり箸、涙箸、探り箸、洗い箸、もぎ箸、舐り箸、銜え箸、噛み箸、渡し箸、据え箸、直箸、すかし箸、拗ね箸、重ね箸、etc、etc……

今此処に全てを極め、あの人にミサカの全力を見せつけろ!!

ピンク色をしたクマの絵をあしらった可愛らしい箸先が完璧な形で里芋を掴み取った。
煮汁の一切も零れ落ちず、ミサカネットワークと照合してもどの忌み箸にも触れない、まさに完全無欠の箸作法究極体を終に打ち止めは極めたのだ。


(やった、やったよあなた!今度こそ掴んでみせたよ!!こんなに頑張ったんだもん。大嫌いな里芋だって食べてみせる、ってミサカはミサカは――――)


打ち止めは気付いていなかった。
箸作法に則り完璧な形でキャッチした大嫌いな里芋を、彼に褒められたい一心で口に含んだ自分の行為の真意に。
苦手である故にさっさと食べて呑み込んでしまおうと考えた子供らしい本能的な動作に。
掴んだ里芋を無理矢理口に押し込んでモキュモキュゴックンした自分の行動に。
それは、


「込み箸はいけませンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!!!!」


注:込み箸 ―― 箸で食べ物を無理に口へと詰め込む事。忌み箸ry)。




518 : 一方通行、パパになる 6/6[saga] - 2011/02/27 15:26:43.77 UCTjNuJ20 7/8




………
………………
………………………


そんな感じのなんやかんやの激闘の末、打ち止めはやっとの思いで一方通行にチョップの撃を与えられない完璧な箸作法を身につけた。
しかしそれまでに払った代償(チョップされた辺りの数々の細胞)はあまりにも大きい。
頑張れ打ち止め、負けるな打ち止め!
完璧な淑女となって見事な社会デビューを飾るその日……否――――――――――――、


「ミサカもう絶対挫けない!あなたの言うキチンとした教養を身に付けるまで何処までもついていくよ、ってミサカはミサカは意気込んでみたり!!」

「よく言った打ち止め!俺はオマエの為に何処までだって指導していってやるからな!!」

「ありがとうあなた、愛してる!ってミサカはミサカはさあ次のミッションは何?と自分から尋ねてみたり!!」

「あははっ、焦るなよコイツゥ。よォし次は『アレレ?フォークとナイフの正しい使い方って分かるかな☆』だ!!」

「ハイっ先生、ってミサカはミサカは練習用のバナナを取りにダッシュしてみたり!」

「ハリキリ過ぎて転ぶンじゃねェぞー」


――――――――計画通ry)と陰でほくそ笑む一方通行の洗脳が解けるその日まで!!




≪一方通行、パパになる≫(完)





519 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/02/27 15:27:11.46 UCTjNuJ20 8/8

以上です。誰が何と言おうとパパなのである。
因みにこの常識外れの一方さんには自分がキチンに学校に通ったりした事が無い故の
『普通の社会』をまともに知らない所為というシリアスな背景があったりするのですが……
…………そんなの知らね。この手の話は色々と書きようがあるので気が向いたらまたチャレンジしたいかもです。