後の面倒はミサカに押し付けて、自分は憧れのヒーローと作戦会議だって。
オバサン二人だのチビだのごまかして宥めるの大変なんだけど。
やれやれ。あの人、ミサカがいないとなんにも出来ないんじゃないの。
仕方ない。最後まで面倒見てやるか。今日だけだからね。
冷蔵機能付きのコインロッカーを開ける。
もちろん、普通のみたいに一日百円ってわけじゃない。
電気代とか上乗せされて、げ! 何この値段!?
後で絶対請求してやらなきゃ。
しかもミサカ小銭無いから自販機で崩さなきゃだし。
このジュース代ももちろん必要経費だよね? ヒヒ。一番高いやつにしよう。
さてさて、一人で持つには重い荷物だこと。
こんなにいっぺんに買ってどうするのかね。特売日にまとめてってことらしけど。
家には五人も人がいるんだし、交代でちまちま行った方が負担が少なくていいんじゃないかな。
あ、でも最終信号は流石に一人じゃ無理か。
黄泉川か芳川か……ミサカが付いててやらないと。
ん?
ああ、これは……
けけけ。今見ても笑いがこみあげてくるよ。
第一位がこーんなかわいらしいヒヨコちゃん目当てでふりかけ買っちゃうなんてさ。
……確かにかわいいけど。
これ、あのチビスケのために買ってやったんだよね。
わざわざ自分の財布から余分に札出してさ。
つまりアレ? 黄泉川じゃなくて、俺が買ってやったんだぞってこと?
黄泉川じゃなくて 俺 に 感謝しろよってことなのかな?
キモッ!
寒気がするね。
しかしまあ、見れば見るほどカワ……間抜けな顔してるよね、このヒヨコ。
最終信号にしたってこれでまんまと喜んじゃうんだから、同じオリジナルを持つ個体として恥ずかしいよ。
あ、そうだ。
コレって、あの人が最終信号を喜ばせるために買ってやったもんなんだよね。
じゃあ、ミサカが横取りしちゃうっての、どうかな?
あの人が帰って来た時に、ミサカが素知らぬ顔でこの子をいじってたら、あの人どう考えるかな?
――なンでコイツがアレを持ってンだ……ハッ!! まさか!
『おかえり~番外個体。え? なあに? このダサいヒヨコ?』
『ミサカいらないから番外個体にあげる~』
『って、ミサカはミサカは絶対零度の視線でヒヨコを一瞥しつつプリンに飛び付いてみる。プヒン(鼻で笑う音)』
とかいう展開になったンじゃねェのか……!? ――
……みたいな感じで超落ち込むかも!!!
あひゃひゃひゃひゃ! 我ながらナイスアイディア!
「おかえなさーい! ってミサカはミサカはあなたに飛び付いてみたりっ……て、あれ?」
一方通行にタックルするつもりで出迎えに来たらしい最終信号が、ミサカの前で急ブレーキ。
残念でした。あの人はいないよ。
「また迷子ーっ? どうしてどうして、あの人っていつもこうなのっ」
まったく、しょうがないな私のカレは、みたいな調子で、腰に手を当てて最終信号が言う。
別にあんたの恋人じゃないだろっての。
「むむ! 可愛いモノレーダーが反応している! ってミサカはミサカは番外個体がぶら下げるビニール袋の一つに狙いを定めてみたり」
な、何? 白いビニールなのに見破られた!? このヒヨコ、電波とか出てないよね!?
うわ、やめろ! それは、それはだめなんだってば! ふりかけよりプリンあるよ、プリン!!
「えーい! プリンよりまずはカワイイ物体の方が優先! ってミサカはミサカは団子より花な乙女を気取ってみたり!」
ちょ!! 破れる! ビニール袋にぶらさがるな!
って、あーあ……取られちゃった。
「うわー! かわいい! かわいいヒヨコが付いてる! ってミサカはミサカは目を輝かせてみるっ!!」
あ、あのね、最終信号。それはね、たまたまおいしそうなふりかけを見つけて、たまたまキャップにヒヨコが……
「あの人がミサカへのお土産に買ってくれたんだよね? ってミサカはミサカはズバリ言い当ててみる!」
えっ……
そ、その……
「絶対そうだ! 買い物メモにふりかけなんか無かったし、こういうことしてくれるのって、いかにもあの人っぽいし!」
うっ……このガキ、分かってやがる……
「うれしいなあ……帰ってきたら飛びついて頭撫でてあげよう。早く帰って来ないかなあ……」
……持ってっちゃったよ。
すっかり自分の物だと思ってる。
ま、その通りなんだけどさ。
あの人が、最終信号のために買ったもの。
それを正しい人物が受け取ったってだけの話。
……………………
………………………………チッ
「おかえなさーい! ってミサカはミサカはあなたに飛び付いてみたり!!」
「このクソガキ! いきなり杖ついてる人間にタックルかますンじゃねェ!!」
「そして思いっきり頭をぐりぐり撫でてあげたり!!」
「ひゃめろォ!!」
はいはい。御馳走様でした、と。
ほんとバカじゃないの。玄関先でじゃれ合ってんじゃないっての。
お互いの肌が恋しくて居てもたってもいられないのかなー? ヒヒヒ。
「どォ見てもこのガキがむやみに絡ンでるだけだろォが」
まんざらでもないくせに。幼女に迫られてご満悦ですか。あーキモイキモイ。
「……なんか、怒ってる? どうしたの番外個体?」
別に。あ、大事なヒヨコちゃんあんたの尻の下で潰れてるけど、いいの?
「ぎゃ! って、ミサカはミサカは今日コレクションに仲間入りした宝物を尻から救出してみたり!」
「……ソレは……」
「あなたからのお土産! ってミサカはミサカは満面の笑顔でヒヨコちゃんを掲げてみる!」
「……」
「うん? 気に入ったよ? ありがとう!」
「……」
「えへへ。でも、お礼はちゃんと言いたいしってミサカはミサカは頬を赤らめてみたり」
なんなの、その、なんか、語り合わなくても分かり合ってる感じ……
めっちゃくちゃきもいわ。
あーあ。何なんだろ。ばかみたい。
今日という日は最悪だ。
ミサカネットワークのせいで行きたくもない買い物に付き合うはめになるわ、
その流れで人助けなんつー柄にもないこと手伝わされるわ、
雑魚散らしの肩棒担がされるわ、
いつの間にかおいてけぼり食らうわ、
さらには重い荷物を一生懸命一人で運んでさ。
ばかばかしい。
それで、なーんにもしないで遊び呆けてた最終信号ちゃんにはヒヨコのご褒美ですか。
そりゃ、かわいいでしょうよ。最終信号は小さいからねー? ミサカと違っておっぱい小さいからねー?
あのドヘ~ンタイ。
何なの。
ミサカにだってさ、ちょっとくらいさ。
いや、ヒヨコはいらないけど。
ヒヨコじゃなくて、そう、現金とかさ。
ダイヤのネックレスとかさ。
くれたっていいんじゃないの。
……そーおだ! コインロッカーとジュース代! 請求しないと!
おーい、第一位。ちょっと用事があるんだけど?
「でけェ声出すンじゃねェよ」
あらら、お姫様がおねむですか。これはこれは失礼しました。
「……オマエ、いつまでそンな態度取ってるつもりだよ」
これがミサカのデフォルトだし。
「そォか? ……そォいやそォだったな」
えっ……もうちょっと不機嫌なミサカを気遣ってよ……
「で、何の用だ」
ああ、そうそう。コインロッカー代。高かったから払って。
「……みみっちィ野郎だな」
ミサカあなたと違ってお小遣い少ないの。いいからちょうだい。五倍でもいいよ。
「やれやれ……財布取って来るから待ってろ」
あれ? 結構素直だね。金には執着がないのか。
しかし面倒臭そうに動くよね。闘ってる時からは想像つかないくらい。
あー、行きも帰りもまるでナマケモノだね。
「じっくり観察してンじゃねェよ、人の動作を」
だって、他に見るものないし。
「床でも見てろ。……ほらよ」
…………え?
なにこれ?
「金だろ」
じゃなくて、一緒に手渡して来たもう一つの方だよ。
「見て分かンねェのかオマエ」
んー?
そ~~~だなぁ~~~~?
食玩のうさぎさん、かな?
「どォ見ても犬だろォが」
うん。わざと。
で、これ何のつもり?
「コンビニで見つけた」
で?
「ヒヨコ買った時にすげェ物欲しそうな顔してただろオマエ。だから犬でもやっとこうと思ってよ」
……
………………………………
あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! あっひゃっひゃっひゃ!!!!
「でけェ声を出すな!」
ばかじゃねえの!?
ばっかじゃねえええのおおおお!!??
「おい!」
ミサカがこんなので喜ぶと思ったんだ!?
ありがとぉ一方通行ぁ~んとか言って飛びつくと思った!?
ぎゃはははははははっ!!!!!!
ありえないし!
ま・じ・あ・り・え・ねぇぇぇぇし!!
「…………」
あははは! は、は……あ~ぁあ。
おっかし……
「いらねェなら返せ」
やだよん。毎晩踏みつぶすのに使うんだ。
「……そォかよ」
ふふ。さて、貰うもの貰ったし、ミサカもお風呂入って寝ようかな。
覗きに来る?
「……」
無視ですか。ま、いーや。じゃあね。
おやすみ~
・ ・ ・
「チッ。ニコニコしやがって」
「笑いすぎだろ、アイツ」
899 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage saga] - 2011/04/11 23:26:59.76 eBL18MQ90 12/12おわりです。