一方通行は苛立っていた。
つい一昨日のことだ。絶対能力進化実験とやらを「面倒なンでェ」という理由でバッサリと断った。二万通りの戦闘方法? ふざけてるとしか思えない。そもそも世間は夏休みに入るというのに、何故自分がそンなにも陰鬱かつ面倒なことをしなくてはいけないのか。先日喧嘩を吹っ掛けてきた第二位ともなんやかんやで友達関係につき、学生らしい夏休みを過ごせると期待していたところに、だ。天井くンの笑い方が気持ち悪くて勘に障ったというのもあるが。
そう、断ったのである。ならばなぜ、妹達が一方通行の目の前にいるのか。予想はつく。大方、実験を強制的にでも始めてしまおうという目論みなのだろう。
「一方通行、実験開始時間まであと30分26秒であるとミサカは伝えます」
「……はァ」
何とか無視はできないものか。常盤台の制服に大きなゴーグルを着けた美少女というのはハッキリと言って目立つ。自身の容姿もあるだろうが、先程から道行く人からチラチラと視線を感じる。
「あのォ……俺断ったはずなンですけどォ」
「実験の中止は認められませんとミサカは髪についた埃を払いながら言います」
「つかァ、これからダチと約束あるンでェ」
「諦めて下さいとミサカは意見を変えません」
ずっとこの調子である。 今日は垣根とゲーセンに行く約束がある。別に今からメールで断りを入れてもいいのだが、このためにドタキャンするのも癪に障る。
「なァンなァンですかァ? そンなに殺されたいンですかァ」
「それが妹達の存在意義ですからとミサカは当たり前のように答えます」
「……面倒だなァ」
一方通行は頭を掻くと、大きく溜息を吐いた。
自分は能力発現時から第一位だった。そのためろくに子供らしい遊びというものをしたことがない。友達をつくる機会もあまりにも少ない。
彼は、青春というものに強い憧れを抱いていた。
(つかァ……人殺したら青春がなくなる気がすンだよなァ)
確かに、彼の能力を使えば妹達を殺すことなど造作もないことである。
(でも一度でも殺したら、なしくずしなしに実験始まっちまうンだろォ? ……二万通りとか……俺の青春潰れちまうしィ)
「実験開始まで、あと15分であることをミサカは何やら悩んでいる一方通行に伝えます」
(……待てよ)
「おいクローン、ちょっと付き合いやがれ」
「は?」
意味がわからないといった表情――なんとなくではあるが――をする。しかしお前の意思とは関係ないとばかりに、一方通行は彼女の腕を掴みグイグイと引っ張っていく。
「どこにミサカは連れていかれるのでしょうか? とミサカはレイプの可能性に少なからず動揺しています」
「ンなわけねェだろ! 俺は年上好きなンだよ!」
巨乳であると尚素晴らしい。
一方通行は携帯電話を取り出すと、素早くメールを打ち送信した。 もちろん、垣根宛てである。彼の携帯のアドレス帳は、ほとんどが埋められていない。機会が無いのだと本人は言うが、実際のところ彼自身の性格も彼に友達ができない理由の一つだろう。友達のいない者同士の波長が合って、垣根と友達になることが成功したのではないだろうか。
「さっきの言葉を、お前は俺のために生きていると俺は解釈したァ」
「それはいささか「ンでェ、俺が絶対能力者になるためには青春を過ごすということが大切なわけだァ」……詳しく話してくださいとミサカは引き摺られつつも一方通行にお願いします」
「青春を過ごさねェと、殺しはできねェンだよ!」
効果音にドーンという文字が書かれていそうだ。その迫力に圧されたのか、世間知らずなのか――世間知らずに間違いはないが――妹達は衝撃を受けたように固まる。といっても、引き摺られたままなので動いてはいるが。
「では……ミサカは無事一方通行が青春を過ごせるよう協力をせねばいけませんねとミサカは一方通行の言っていることに納得します」
「あァ、それにはお前が必要なンだぜ?」
「……どういうことでしょうとミサカは解答を促します」
「お前も一緒にいて、俺の青春ができるってことだよ」
「……よくわかりません、とミサカは正直な意見を述べます」
「そのうち分かればいいンだよ」
妹達は黙ってしまうが、一方通行は引き摺り続けた。向かっている先は垣根と待ち合わせをしている喫茶店である。つまり、遊び仲間に入れてしまおうという魂胆であった。
彼の中では、青春に女友達はつきものであるらしい。そして、この面倒な実験の開始を長引かせる良い口実にもなると考えたのだ。
「お、着いた」
掴んでいた腕をパッと離す。大きな音をたてて落ちると思ったが、さすがは軍用クローンである。そのままスッと立ち上がった。
「ていとくンはどこかなっと……」
ホスト、ホストと呟きながら店内を見回す。窓際の席で、片手をひらひらと挙げている男が見つかった。
「いや、悪ィ。遅れた」
「大丈夫だ、問題ない……メールの女ってこいつか?」
「あァ」
「検体番号00001号ですとミサカは自己紹介をします」
「……あとで説明するから流してくれェ」
垣根は変に思ったのか一瞬眉を潜めるが、すぐにニッと笑った。
「俺は垣根帝督だ。」
右手を差し出すと、
「青春実行会にようこそ」
つられて妹達も出された手を握った。
横にいた一方通行が、してやったりという顔で柄の悪い顔を一層悪くしてニヤニヤとしていたのは言うまでもない。
おわり
「ちなみに青春実行会とは何ですか? とミサカは何となくの察しがつきつつも、垣根帝督に訊ねます」
「あ? 説明してないのかあいつ……。まぁ名前の通り、皆で青春を過ごそうってクラブみたいなもんだ」
「まんま過ぎて吃驚ですとミサカは大して面白くなかったことに溜息を吐きます」
739 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/04/27 08:06:10.24 T7fhr59DO 3/3おわり
お目汚し失礼しました
名前にセンスの欠片もないな