864 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)[sage] - 2011/04/29 23:37:17.41 YwvneVLQ0 1/14

どうも、>>695の美鈴通行の続きです。
前回投下した後の皆さんの美鈴通行語りにテンションあがって今更だが書いてもーた。
12レスほど頂きます。因みに前回言い忘れましたが、この物語はSSと14巻の間辺りのお話です。

御坂美鈴の学園都市7泊8日一人旅
http://toaruss.blog.jp/archives/1029857396.html

元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-27冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1302720595/
865 : 続 御坂美鈴の学園都市7箔8日一人旅 1/12[saga] - 2011/04/29 23:39:04.37 YwvneVLQ0 2/14




秋冷爽快の候、木々の葉も日毎に秋色を増してまいりました。
遠く離れた学園都市で美琴ちゃんはどのようにお過ごしの事でしょう。
私の方は相変わらず、大学は休学したものの忙しない毎日を駆け巡っております。
そんな日常も楽しいので文句などはありませんが。

先日学園都市を訪れる事があったので美琴ちゃんに会いに行きたかったのですが、
名目が仕事だった為どうにも顔を見る事ができず残念でした。
また今度機会があれば、そちらのお店で一緒にお茶でも致しましょう。


実は今回筆をとったのは、あなたに言いたい事があったからです。

昔あなたは
「イバラギのおばちゃんがまた男作って逃げたんだって。今度はいつ騙されたって泣きながら帰って来るかな、ママ?」
と言っていましたが、隣の不倫女はイバラギじゃなくイバラキさんです。

借金抱えてジャボンシティ諸島まで高跳びなさった現在となっては今更かと思いましたが、
やっぱり人の名前とか間違えるのは失礼だと思います。

それじゃ元気で、美琴ちゃん。


御坂美鈴


P.S.  家族が一人増えました。オニイチャンって呼んであげてね(笑)







「笑えるかァァァァァ(怒)本分とP.S. が逆コレェェェェ!!!」


珍しく手紙を送って来たかと思えば何だコレは。
怒りに任せて母親からの手紙を破り捨ててしまった御坂美琴は、荒立てた息に肩を上下させながら大人しく零れ落ちた紙片を集め出した。

家族が一人増えました。此処までは良い。
ペットでも飼い始めたか………年甲斐もなく乳繰り合って、年の離れた弟か妹を妊娠しちゃいましたというならまだ納得できる。

だが。


「――――――オニイチャンって、………ナニ………?」


学園都市に七人しか存在しない超能力者、その第三位『超電磁砲』はその優秀な頭脳を極限まで張り巡らせた結果、
<両親離婚の末の母親再婚連れ子アリ> の未来に腹を括った。






866 : 続 御坂美鈴の学園都市7箔8日一人旅 2/12[saga] - 2011/04/29 23:40:24.83 YwvneVLQ0 3/14




「むふぅ……皆ったら私の渾身の報告書にケチつける事ないじゃなぁい」


7泊8日に渡る学園都市滞在記を『作文んんんんんんんんんんんん!!?』と一蹴され再提出を命じられた御坂美鈴は、
先日までの一週間で大分慣れた第七学区の大通りを練り歩いていた。

つまりはもう一度視察からやり直し、という訳である。


「チクショウ一生懸命書いたのによう……バリバリ私用に転換しちゃって美琴ちゃんに会いに行っちゃうぞコノヤロぉ……」


因みに今の時間は夜の10時。
電車やバスの最終便が学校の最終下校時刻に設定されている学園都市からすれば、比較的遅い時間だ。
急な来訪の決定に出発が遅くなりこんな時間での到着となった美鈴は、もういっその事夜回り先生ばりに深夜を屯する子供達を観察していこうと考えた訳である。

この時間帯にスキルアウトに襲われた事を、彼女は学習していないのかもしれない。


「ちょっとそこの奥さん、こんな時間に歩いてると危ないじゃんよ」


しかしそんな彼女にも救いの手を差し伸べる人間はいた。


「あり?煙草買った時につっかかってきた警備員のオネーサンだ」

「あの時は悪かったじゃんよ。ハタチ有るか無いかって見た目だったから、まさか中学生の子持ちとは思わなかったじゃん」


見覚えのあるジャージ姿の、それでもそんな飾り気のない服装からムンムンと色気を溢れださせた女性は
先日美鈴が学園都市を訪問した際に、コンビニで煙草を注文した所に居合わせ店員より早く身分証提示を求めてきた警備員だ。
今でこそ腕章を着けていないが、警備員は教職員達がボランティアで兼ねる役職だというから勤務時間外なのかもしれない。


「いえいえ。ヤダあのヒト未成年かもー、なんて若く見られたってんなら美鈴さんも嬉しいってモンですよ」

「そう言ってもらえるならコッチも気が楽だけど………そうだ!これから丁度飲みに行く所だし、よかったら一緒にどうじゃん?
 実際住んでないと分からないような穴場の店、紹介するじゃんよ。勿論コッチの持ちで」


穴場の店、と聞いて美鈴の耳がピクリと跳ねた。
学園都市には何でも最新鋭科学技術によって特別な製法で熟成させた上等酒があると聞くではないか。
酒好きの美鈴としては是が非でも飲んでみたかったものなのだが、これまでの訪問では一度も巡り合えた事がなかった。


「イクイクイクイクイっきまあす!!幻の名酒『AIM拡散力場酒』を一度でいいから美鈴さん、飲んでみたかったのよねぇ」

「任せるじゃんよ。焼酎、日本酒、ワイン、学園都市限定品から『外』の逸品まで揃った最強の店に案内するじゃん」


ひゃっほおーい!!
テンションの高揚しまくった学園都市外部の保護者と、飲んで語ってをヤる気満々な警備員。
出会ってはいけない二人が此処に集結してしまったのかもしれない。


主に、曰く『あーくん』にとって。






867 : 続 御坂美鈴の学園都市7箔8日一人旅 3/12[saga] - 2011/04/29 23:41:36.22 YwvneVLQ0 4/14




ブルリ。
前触れもなく隣で体を震わせた少年を見て、結標淡希は呆れた様に顔を顰めた。


「やだ、4日も行方不明になってたと思ったら今度は風邪?うつさないでよ」

「違ェよ、なンか………――――悪寒が走っただけだ」

「寒気か?熱出たとか言うなよ、お前を探していた分の仕事が詰っているんだからな」


「分ァってンよ」面倒臭げに頭を掻いた一方通行は、目の前の机に置かれた資料の山を見ながら「今時紙媒体かよ」と文句を洩らす。
ネットワーク上のデータではハッキングなどの恐れがあるのは百も承知だが、どうにも紙は一枚一枚捲る手間が見ていて嫌になる。

今彼らが座っている黒塗りのキャンピングカーの座席は学園都市の小組織『グループ』のアジトである。
何故そのアジトに大量の書類、もとい仕事が舞い込んでいるかといえば、先程構成員の一人である土御門元春が言った様に彼――― 一方通行に理由がある。

一般人が暮らす表舞台の平和の為に日夜裏社会で暗躍する彼らであるが、
不休連戦という劣悪な任務の中遂にヘマをやらかしてしまった一方通行は命の綱である電極を電池切れに追い込んでしまい、
その上最悪な事に同僚から『回収』を受ける前に背負われ連れ去られてしまったのだ。


そう、親切から『保護』を試みた一般人に。
彼が命を賭してでも護りたい少女達の、遺伝子上の血縁者に。


本来『グループ』だけでなく学園都市の暗部に所属する構成員達は、身内や友人に裏社会に関わっている事を悟られるのはタブー中のタブーなのだ。
それを一方通行は易々と犯してしまい、あまつさえ4日間も第一位行方不明の状況を作ってしまった。

『電話の男』からお咎めがないのは、彼がそこまで消耗するほど能力を行使しなければ街で平凡に暮らす学生達に甚大な被害が及んだ為であり、
だからこそ同僚達も彼を始末する方向には動かなかったのだ。
ただし当て付けとばかりに大量に押し付けられた仕事への嫌味を言われる事はあるが。


一方通行は積み上げられた書類の束をパラパラと乱雑に巡りながら、
(しかし内容は完璧な状態で頭に入っている。何せこの彼は35万7081文字のウイルスコードを52秒で読破し48秒で反芻、65秒で記憶照合した超人だ)
一つ一つのデータを数瞬でパズルの様に組み上げ、より完全に近い『状況』を脳内に嵌め込んでいく。
まるでその頭脳を丸ごとシミュレーションシステムに置き換えた様に脳内で造り上げた『想定状況』に身を預け、現場での何百万通りの対応を練り混ませる。


「――――……MARのキャパシティダウン製造工程データ盗難事件、ねェ……」

「俺達は『外』の賛同機関からの要請で動いた奴らの『内部犯行』じゃないかと睨んでいる」

「ま、妥当だァな」


MARことMulti Active Rescue は警備員の一部署として用意された先進状況救助隊だ。
元隊長兼付属研究所所長であったテレスティーナ=木原=ライフラインの起こした騒動から一時活動はストップしていたが、
いつ何時必要とされるか分からない救助部隊を学園都市がいつまでも放置しておく筈もなく、
早々に別の人間が隊長の座に据えられ部隊として復活を遂げていた。

無論部隊改変の際にメンバーも総入れ替えの憂いにあったが、
前研究所所長テレスティーナが開発した特殊駆動鎧やキャパシティダウンのデータや実物も変わらず此処で管理されている。
要は下手に外へ出すより、新たに入れ替えられた正義感溢れる警備員のお膝元で保管した方が安心だろうという考えだ。


「でも一度は事件を起こして御坂美琴にボコボコにされて元々いたメンバーは全員クビになったらしいし?
 新しいメンバーも簡単に盗難を許すだなんて、MARも面目丸潰れね」


しかし結標の言う通り、それも無駄だったらしい。
厳重に管理されていた筈の演算阻害音響装置キャパシティダウンの製造工程を示したデータは簡単に盗難され、
警備員の精鋭が何事かと、その尻拭いが暗部にまで回って来てしまった。

土御門はこれを、『外』の学園都市協力機関が『内』の組織と結託しての犯行ではないかと睨んでいるらしい。
盗んだデータから実物を製造し、高位能力者のサンプルを奪取してこよう。そんなところだろう。

今出回っている完成品や同じ様に演算阻害を目的としたAIMジャマー固定設置型が基本である。
重要な建造物等への能力による侵入を防ぐ為でなく無差別に能力者を陥れるために用いるのであれば、
未完成版と言えどオーディオ機器程度の大きさだった試作型の方が何かと都合が良い。
その推測は一方通行、土御門共々共通している。




868 : 続 御坂美鈴の学園都市7箔8日一人旅 4/12[saga] - 2011/04/29 23:43:15.43 YwvneVLQ0 5/14




「――――で?その盗んだ奴らが完成させた改良型試作機が更に盗まれたっつーのは、どォいう事なンだよ」


そう。事態がややこしくなっているのは此処からだ。
一方で一方通行の捜索に当たりながらも、グループの面々はキャパシティダウンの製造データを盗んだ組織を独自の手段で追っていたらしい。
しかしいざ居場所を突き止め襲撃して見れば、ブツはまた別の組織から盗難されていたというのだ。

最初に盗んだ組織のバックグラウンドを現在洗っている途中だと聞くが、更に盗んだ組織がそれで割れるかと言えばその可能性は無きに等しいだろう。
面倒臭い事この上ない。


「理事会は同じ手を考えた別の外部組織が横槍をしたんじゃないかと考えているらしい」


「それもまァ妥当な線だな」明確な目的と言えばその程度しか浮かばないかと考えながら同意する一方通行に、
「そういえば」と話題を切り替えるための文句を結標が切りだした。


「キャパシティダウンって言えば、私や土御門が動けないのも痛手なのよね。レベルの低い能力者にも効果があるらしいし、アレ」

「まあ結標よりは音聞いても大分楽だがな」


ホワイトリスト式に害ある者を無意識に『反射』できる一方通行は例外として、
能力者全般に効いてしまう装置に万全な態勢で対応できるのは『グループ』内ではこれで一方通行と海原光貴だけになった。

土御門は無能力者だが能力発言自体はしている為に演算阻害による弊害が表れてしまった様だ。
つまりは同レベル能力者の中にも存在する優劣――――例えば大能力者の『座標移動』と大能力者の『空間移動』のスペック差―――も関係するのだろう。


「って、さっきから海原ったら何も話さないじゃない気持ち悪いわね。好みの幼女でも見付けたワケ?」

「………いえ、幼女ではなく好みの顔した成熟女性をお一人」


―――――好みの顔?
海原が思い人と公言する御坂美琴を思い出し、オリジナルがそこらをウロついているなら暫くは車を降りられねェなと考えた一方通行も
しかし『成熟女性』という表現が気になって結標や土御門と同じ様に海原の指さす方向を覗いてみた。

すると、




「美鈴さんには帰りを待つパパがいるんでぇ~~ボク達の相手はしてあげられないんですね~~チューまでならホッペに可だけどお~~」

「幾つになっても娘にガミガミ小言吐くクソ親父なんか放っておいてよ、俺達と遊ぼうぜオネーサン?」

「チューだけじゃなくて俺達どうせならオネーサンともっと進んだ遊びがしたいんだけどお」




目標補足。
御坂美琴と同じ顔をした、ナイスバディの成熟女性。


「なァにやってンだ、あの馬鹿女ァああああああああ!!?」

「あらあら大変じゃない早く行って助けてあげなさいよ、あーくん」
「お母さんがお困りだにゃー、バカ息子」
「御坂さんの事はお任せ下さい、お義兄さん」


やはり気付け用にと『回収』の際に持ってきたコーヒー缶には盗聴器が仕込まれていたか。いや、恐らく小型カメラも搭載されていただろう。
電極を切り替えて人暴れしてやりたかったが、馬鹿女も放っておくと厄介だ。
仕方がないので『お義兄さん』と呼んだ海原だけチョップを入れ(能力ON)、一方通行は颯爽とキャンピングカーを飛び出した。






869 : 続 御坂美鈴の学園都市7箔8日一人旅 5/12[saga] - 2011/04/29 23:44:21.96 YwvneVLQ0 6/14




「でさ~~、この前この街で第二の子供が出来ちゃったワケなんですよお、捻くれ者で優しいム・ス・コ☆きゃー」

「御坂さんが羨ましいじゃんよー。ウチのなんか書き置きもなしに薄情にもとっとと出て行きやがってさー。
 長点上機だか何だか知らないけど、せめて家で歓迎パーティー開いてから寮に移って欲しかったじゃん」


時は遡って2時間前。
よもや互いの『息子』が同一人物であることなど露知らず、御坂美鈴と黄泉川愛穂の女二人は黄泉川が進める穴場の店で酒を傾けながら意気投合していた。


「分かるわ~、なんであの年頃の男の子って皆一度決めたら頭ごなしに勝手に進めちゃうんでしょうね。
 ウチの息子もあれだけ献身的に面倒見てあげたのに『世話ンなった』の一言で行っちゃうんだから~」


プハー、とカップに並々注がれた焼酎を喉に流しながら同意する美鈴は隣で飲む黄泉川同様既にホロ酔いで、
これは黄泉川の知らぬ所だが酒癖の悪い彼女があとどれほど正気を保っていられるか危うい所だった。
それでもバッドタイミングというのは、都合の悪いときに起こるからそう呼ばれる言葉なのだ。

ピリリリ……


「おっと電話じゃん、失礼」


懐から存在を主張する携帯電話を取り出した黄泉川が酔った口調で「もっし~」なんて応答する。
が、電話口からは焦った様な声が漏れ聞こえ、聞き耳を立てていた美鈴は首を傾げた。
何かあったのだろうか。


「分かった直ぐ向かう。鉄装にはこっちから連絡しておくから、そっちも出て来れそうなヤツ片っ端から連絡を……
 ―――――ゴメン御坂さん、警備員の部隊から呼びだされた。お代は店の親父にツケといてくれれば今度払っとくからゆっくり飲んでって」

「残念、お仕事気をつけてね」


簡単に挨拶を交わすと走って去っていった黄泉川を見届けながら、美鈴は瓶から自分のカップに再び焼酎を注ぎ一人酒を洒落込む。
思った以上にこの穴場と置かれている酒が気に行ってしまい、帰ろうと考える度に後もう一杯だけと頭の中の悪魔が囁く所為で帰るに帰れなくなってしまった。

そして結局、


「お客さん、もう店仕舞いだから帰って下さい。お代は愛穂ちゃんにツケとくから」


半ば追い出される様な時間まで、美鈴は一人の明け暮れてしまったのだった。




870 : 続 御坂美鈴の学園都市7箔8日一人旅 6/12[saga] - 2011/04/29 23:45:38.31 YwvneVLQ0 7/14




酔い覚ましに少し夜風に当たろうかとフラフラ歩いてホテルを目指してみれば、いかにも自分達不良少年ですといった風体の少年2人に美鈴は声を掛けられた。
普段なら済ました顔で「あらそんなに若く見える?でも私夫と娘持ちよホラこの写真」と躱せるのだが、
生憎と一度酔ってしまった彼女にはそんな判断力など皆無である。

そもそも女子大生にしか見えないような見た目で「だからあ~パパに怒られちゃうって~」なんて言われた所で、
想像するのは実の父親かイケナイお店のパトロンくらいだ。まさか旦那とは思うまい。

埒の明かない美鈴の態度にもう連れ込んじまった方が早いと目で合図した少年二人が、美鈴の細い腕を引っ張る。
そのまま目立たない場所まで御同行願おうと歩き出せば「あ、ついでに○×ホテルまで送ってって」なんて言い出すものだから性質が悪い。
もしこれで彼女に何かあったとしても、同意の上だったという供述が本当に思えてしまう状況だ。

もういっそそのホテルとやらまで一緒に行ってそこでこの女と禁則事項的な事でも致してしまおう。
少年達がそんな事を考え始めた時だ。


「おィ中坊の子持ち馬鹿女、こンな夜更けにガキ誑かしてンじゃねェよ帰れ」


非難されそうなのは自分達だろうに、何故か女の方を貶める様な台詞が人気のなくなった大通りから割って入った。
カツリ、コツリと杖をつきながら近づいてくるその声の主の姿を、クルリと振り返った女が確認すると


「あーくんだ、あーくんだ大きくなってー!!ねえねえアレ私の息子~~カッコイーでしょ?」

「誰が息子だ、っつーか酒癖悪ィンなら飲むンじゃねェ馬鹿」


「世話かけたな」と軽く会釈したその人物は、先程まで杖をついていた筈の体を気にしない様に女の肩を悠々と支えながら歩き出した。
どっかでタクシー拾うか、などと呑気にブツブツ呟いている。


「―――って、待ちやがれ!!その女とどういう関係だか知らねえが、女は置いて行ってもらおうか!?」


お約束の台詞に憐みの視線を返されたのが実に不快だ。感情の赴くままに拳を振り翳し飛びかかる。
すると、








「…………ったく、やっと大人しくなったか。手間取らせやがって」


勿論能力で打ち負かした不良少年達の事ではない。つい数分前まであーくん、あーくんと喚いていた美鈴の事だ。
ヨロヨロと危なっかしい美鈴と共にタクシーに乗り込み、先日泊ったホテルへと向かう。
学生カップルが夜を過ごすには高すぎるホテルの名にチラチラとこちらを見遣る運転手の視線が鬱陶しかったが、それも我慢した。
これで充電切れの際面倒をかけた借りはチャラだ。一方通行はそのつもりだったのだが、


「あーお部屋だー、いつの間にか帰ってるう~。さ、あーくん、もう寝ましょうねー」

「だァああああ、うっぜェええええええ!!!」


押し倒されようが無理矢理布団に押し込められようが、例の少女達を成長させた様な顔立ちの美鈴を無下にする事もできず、
どうしてこうなったのか。
結局、同じ部屋の同じベッドで一晩を明かしてしまった。あー、うぜェ。






871 : 続 御坂美鈴の学園都市7箔8日一人旅 7/12[saga] - 2011/04/29 23:46:40.06 YwvneVLQ0 8/14




朝起きて「あらあーくんったらお布団に潜り込んでくるだなんて……ママが恋しかったかしら?」と聞かれた時は、流石に殺意が湧いた。


すぐ暴力に移らなかっただけ自分は大分成長したように思う、精神的に。
ホテルのルームサービスは飽きたから近場のファミレスで朝御飯にしたいなどと言いだした美鈴に強引に付き合わされる事となった一方通行は、
ファミレス特有の薄いコーヒーと安ったらしいモーニングセットを前に切実にそう感じたという。


「恥ずかしがる事ないのに。一緒にお風呂にも入った仲じゃない。ママちゃんと覚えてるわよ、意外とあーくん大き――――」
「黙れ」


自分の台詞を遮った故なのか、あまりに素っ気ない態度を取られた故か。
むぅ。と年齢不相応に唇を尖らせた美鈴は、しかし直ぐに天真爛漫な表情で「ハイあーくん、あーん」とフォークに突き刺したウインナーを差し出して来た。
一方通行がそれを無視して自分のセットのウインナーを口へ運ぶと


「あーんって強請るの、可愛かったのになぁ。オムライスの時なんかお口の周りケチャップで汚しちゃったりしてて。ママ残念」

「いい加減にしろ、とっとと本題に入りやがれ―――――……酔った振りして一晩引き留めやがって」


一方通行の真っ赤な双眸がギロリと美鈴を射抜いた。
大抵の人間なら彼の威圧に背筋を凍らせるものだが、自称母親を名乗る彼女にとっては子供の背伸びと同義らしい。
「別に酔っぱらってたのは振りじゃないけどさー」と言いながら半ば困った様にポリポリと頭を掻きながら、美鈴は真っ直ぐに少年の瞳を見つめた。


「―――――学園都市で戦争が起こるかもしれないっていうの、知ってる?」

「先端科学を扱う学園都市に反化学思想を謳うロシアの宗教団体が喧嘩売ったって話だろ、知ってる」

「私一番最初に君に会った日……本当は美琴ちゃん――――娘を、連れ戻そうと思ってたの」


それも知っている、とは一方通行は言わなかった。
ガラリと雰囲気の変わった、例えるなら何かを悟った様な打ち止めの表情に良く似た美鈴の顔(実際は打ち止めが美鈴に似ているのだが)に彼女の真剣さを受け、
彼は黙るしかなかった。


「でも娘はこの街に残る事を望んでるみたいだし、君達みたいな……私を助けてくれた君達みたいな子があの子の事も支えてくれれば安心かな、って」


―――――気付いていたのか。
一方通行自身も、あの日自分が現場にいた事を美鈴が気付いていたのではないかと薄々考えはしていた。
銃を握ったまま愚かにも充電切れを起こして拾われた際、警備員にも風紀委員にも引き渡されなかった時に、そう感じざるを得なかった。

普通タクシーに乗せてやった程度の恩では、余程のお人好しでない限り匿おうなどとはしない。
つまりは再開した当初から美鈴は、それ自体は知っていたのだ。
一方通行が銃器を扱える環境にあるという、それ自体は。


「………で、結局オマエは何が言いたい?カワイイカワイイ私の娘を助けてあげて~ってかァ?」

「そうよ」


隠しもせず言いきった美鈴に、一方通行が眉根を寄せる。





「―――――娘を、お願い。護ってなんて図々しい事は言わない。だからせめて、あの子が苦しい時に見掛けたら、支えてあげて」





872 : 続 御坂美鈴の学園都市7箔8日一人旅 8/12[saga] - 2011/04/29 23:48:01.84 YwvneVLQ0 9/14




「この街には君がいるんだ、ってそれだけで、私は安心できるから」そう呟いた美鈴の表情は、何処までも何処で断ち切ろうとも<母親>だった。
オリジナル、妹達、打ち止め。
彼の知る10034人の少女達ととてもよく似た、彼が葬った10031人の少女達と限りなく同じ顔をした<母親>。

『 <娘> をお願い 』

その言葉は彼にとって、免罪符であり鎖であった。
全てを許容し包み込む様な慈愛を纏った、責任と処罰を言及する一言。
美鈴にその自覚はない。娘の事情も彼の事情も、彼女にとっては遠い世界の見知らぬ話だ。

だが、一方通行には。


「―――――もる、」

「へ?」


掠れた声で吐き出す様に漏れた返答に、美鈴は思わず素っ頓狂な声を上げる。
しかしそれでも構わぬように、一方通行は食べかけのモーニングを放棄して伝票を抜き取りながら席を立った。
そして、



「オマエの娘はこれ以上一人たりとも失わせねェ。命に代えても俺が、―――――護る」



器用に杖をつきながらズボンの尻ポケットに突っこまれた財布を漁って歩く彼の左手を、美鈴の細い指先が絡め取った。
自身の進行を阻む美鈴に、一方通行が目を細める。

「駄目よあーくん、そんな事言っちゃ」嗜める美鈴に、一方通行はいよいよ訳が分からない。
迂闊にも妹達の存在を臭わせる事を喋ってしまったが、疑問を問われるならまだしも注意される箇所が見当たらない。

美鈴も食べかけの朝食をそのままに、一方通行の左手から伝票を掠め取ると同じ様に席を立った。
彼の正面に立ち上がり、真っ直ぐに赤い瞳を見つめながら、美鈴は彼の白い頬に手を寄せる。


「命に代えるだなんて、言っちゃダメ。私を悲しませたくないのなら自分の命も大切になさい。――――-あなたは私の大事な息子、なんだから」


勝手にほざいているだけだ。息子になるなんて言ったつもりもなければ、母親になっていいか聞かれた事もない。
分かっている、赤の他人だ。その筈なのに一方通行は御坂美鈴を振り切れない。
顔立ちよりも、罪悪感よりも前に、頬を撫でる細い指先の温もりが彼に拒絶を躊躇させる。


「あの子を気遣ってくれるなら、兄と誇れる自分になりなさい。………アクセラレータ」


抱き締められた。触れるというには強く、締め付けるというには弱く。
白衣を重ねた研究者にも能力を測る計測機にも決してなかった温かみ。
肌を通して伝わる体温の居心地の良さに、無意識に一方通行も腕を伸ばそうとして―――――――


ピリリリリリ


懐に入った携帯電話が音を上げた。
通知を見ずとも解る。この時間、この状況でコンタクトを必要とするその相手。
ふと窓辺を見渡せば、建物の隣に黒塗りのキャンピングカーが添えられていた。

伸ばしかけた腕を静かに降し、一方通行は踵を返した。
離れ際ボソリと呟かれた言葉に、今度は美鈴も、彼を引き留めはしなかった。




「―――――………次に呼ばれる時は、美琴ちゃんみたいに『ママ』が良いかな」







873 : 続 御坂美鈴の学園都市7箔8日一人旅 9/12[saga] - 2011/04/29 23:49:01.15 YwvneVLQ0 10/14




「迷子になりやすい <あーくん> にはGPSが必要かと思ってな」いつの間にか勝手に取りつけられていたらしい探査装置について問えば、あっさりそう返された。
呆れた様に溜息を吐いた一方通行に悪びれる様子もなく、土御門はただ一言。


「仕事だ」

「状況はどォなってやがる?」

「例のキャパシティダウンを利用した連中に立て篭もられた。目的は恐らく高位能力者の捕縛、場所は―――――常盤台中学」








広大な敷地面積を誇る超お嬢様学校を僅かに離れたビルの屋上で双眼鏡を覗き込みながら、海原光貴と一方通行は顔を顰めた。
警備員の数が多すぎる。
元々キャパシティダウンの製造データを盗まれたのが自分達のシマからだった所為か無駄に張りきっているらしいが、
『グループ』達暗部が動くには邪魔にしかならない。


「チッ、黄泉川の野郎まで居やがる………さっさと引かせろ」


『電話の男』にでも連絡を付けたのか、携帯電話を折りたたみながら「どうしますか?」と尋ねる海原に、
警備員達が渋々といった体で下がっていく姿を確認した一方通行は「乗り込む」と端的に告げた。

一方通行の能力は触れただけで破壊を齎す。
相手の組織など詳しいデータもなく高位能力者保護という急を要する状況ならば、現場に乗り込み生の情報を漁った方が手っ取り早い。

海原もそこは理解しているのか、文句の一つも零さずに一方通行に同意する。
現状はオールイエロー。
立て篭もった十数人の駆動鎧がキャパシティダウンを作動させ、学生達は昏倒或いは不調。
いずれにせよ能力は使えず、学内の教員は大抵が死亡し生きている者も動けない状態にあると聞く。
そもそも立て篭もる前に校門近くで負傷者が多数出るほどにはそれなりに大きい事件を起こし、常盤台に所属する警備員らを外に引きつけたというのだから計画的だ。

それでも馬鹿高い入学金と学費を請求する仮にも上級を名乗る学校ならそんな古典的な手に引っ掛かるなよと一方通行は思うのだが、
起きてしまったものは仕方がない。
時話題中学と聞いて一瞬だけ浮かんだ御坂美琴の顔に何考えてンだと嘲笑し、彼は杖を小さく握る。


「俺は敵の駆動鎧ブチ壊しながら先に行く。オマエは勝手に後から来い」


外で構えていた警備員が完全にいなくなった頃を見計らい、一方通行が高層ビルの屋上から飛んだ。
そのまま僅かに低いビルの天井や側面を二、三度蹴り上げ、学園都市最強の超能力者が豪奢な校内へと消えていく。

そんな光景を眺め終わると黒曜石のナイフをクルクルと手元で回転させていた海原は、
幼子の意地っ張りを呆れながらも許容する様に「まあ、仕方がないですかねえ……」と息を吐いた。


「御坂さんを助ける役目は今日だけ譲ってあげますよ、お義兄さん」






874 : 続 御坂美鈴の学園都市7箔8日一人旅 10/12[saga] - 2011/04/29 23:51:33.14 YwvneVLQ0 11/14




ガショリ!!
生身の人間が生み出したとは到底信じられない破壊音と共に、黒く塗装された駆動鎧が中身の人間を吐き出しながら崩れ落ちた。
これでこの部屋にいた敵兵は全て片づけた事になる。
この一角でのリーダー格だったらしい最後の駆動鎧を操縦していた男の懐を漁りながら、一方通行は舌を巻いた。

電磁投射砲を駆動鎧のサイズで発射できるよう開発されたハンドコイルガンに、イナーシャ・オペレーションを威力、サイズともに強大にした様な自動連射式散弾銃。
学内中に設置された劣化版小型キャパシティダウン。
おまけに警備員対策なのか、自分達の電磁操縦チップを通常の物と変えた上で駆動鎧用チップ攪乱装置まで準備されている。

よく調べてある。そして、それなりに資金援助を受けている。
警備員の駆動鎧用チップの情報など極秘中の極秘だ。これが知れれば簡単にスキルアウトに操縦権を奪われてしまう。
装備した武器に関しても開発費と開発研究所、共に質が良い事が窺える。
そのうえ一方通行が手を下せば簡単に殲滅できるレベルではあるが、思ったよりも組織として統制もとれている。


(<猟犬部隊>と同等の暗部組織……?だが裏側の暴走なら駆除依頼は<電話の男>じゃなく理事会から来る筈、か)


そもそも、先程から拘束する為の武具が見当たらないのが引っ掛かる。
能力者を捕縛するのが目的であるならば、拘束と輸送の手段は必須である筈だ。

何かがオカシイ。こちらの推測が何処かズレている。
考えろ。
キャパシティダウン、一度盗難に遭い更に盗まれた製造データ、一度目の犯人として捕まった外部協力機関との関連を疑われる組織、駆動鎧の操縦チップ、
そして


『理事会は同じ手を考えた別の外部組織が横槍をしたんじゃないかと考えているらしい』


<高位能力者捕縛を目的としている>。その推論は何処から始まった?
まさか、

―――――――そう思わせる事に意義があるとすれば?

学園都市外部協力機関との関連組織がデータを盗んだ事を利用して、自分達も能力者捕縛を目的としているよう見せかけたのだとすれば?
実際に学校一つをまるまる人質としその線を濃厚にして、自分達の素性を隠したとすれば?
目的は捕縛ではなく別の事、例えば殺害にあるのだとすれば?


『一度は事件を起こして御坂美琴にボコボコにされて元々いたメンバーは全員クビになったらしいし?』


この常盤台中学で狙われるだけの価値がある存在。
狙われるだけの理由を持つ人物。
それは旧MAR隊長テレスティーナ=木原=ライフラインを起訴した


御坂美琴


「――――………そォ言う事かよ」


チッ、一度舌打ちした一方通行は怒りのままに転がっていた駆動鎧を踏み付ける。
カミサマっつーのがもし居るンなら、あの顔をした女共へ余程俺に何かをさせたいらしい。

『娘を、お願い』
そう言った美鈴の顔が浮かんで消えた。
あの女から、これ以上娘を奪う気か。それが神様とやらの決定事か。


「その幻想をブチ殺す、だったか?」


なら何処までも逆らってやる。
世界を血溜まりで覆ったとしても確実に、この手で救い上げてやる。


「やってやろォじゃねェか、刃向かう全ての現実をブチ殺して」


嗚呼、目的があるっていうのは、本当に楽しい。





875 : 続 御坂美鈴の学園都市7箔8日一人旅 11/12[saga] - 2011/04/29 23:53:35.64 YwvneVLQ0 12/14




「オイ海原、オマエはもうこっちに乗り込んでるか?」

『ええ既に。貴方が送ってきたキャパシティダウンの位置予想図も確認しましたよ』


海原の返答に一方通行の口端がニヤリと上がった。
その顔はとてもこれから学生達を救いに立ちあがる英雄像には見えない。


「ならオマエのナントカの槍で印しつけた順に壊しとけ。俺は俺でやる事ができた」

『…………………大方予想もつきますが、まあ良いでしょう今回は譲ると決めましたし。ただし、傷の一つでも負わせたら自分が貴方を殺しま――――


海原の話を途中で遮り通話を切った一方通行は、先程彼に送ったキャパシティダウンの位置予想図を見遣る。
音によって演算を妨害するキャパシティダウンは、一方通行の能力で音の下を辿れさえすれば常盤台の設計図と照らし合わせて粗方の位置を探る事が出来るのだ。

キャパシティダウンの効果範囲、および先程調べた御坂美琴のクラスの位置から彼女の演算を阻害している装置の数は予想で10機以上。
全部壊して回っている間御坂美琴が安全かと言えば、彼女の状況にも寄る。
故に一方通行は、より優先度の高い順に装置を破壊する様海原に指示した。
能力者の生け捕りが目的ではないと分かった以上、美琴以外の学生の生死は問われかねない状況の中、これで一方通行自身は御坂美琴の安全に徹せられる。

お嬢様学校と言えど、机や椅子の材質レベルはともかく教室の構造は然程変わりないらしい。
能力全開で走りながら教室の概要をチェックしつつ、一方通行は美琴の教室をひたすらに目指す。

すると、パン、という甲高い銃声が三半規管を刺激した。
考えてしまう最悪の事態を振り払い、上等な質の廊下を細い脚が蹴り上げた。







教室中がクラスメイトの悲鳴でいっぱいになった。
生徒達を庇おうと前に出た担任が大振りな駆動鎧装備用の銃で撃たれた為だ。
覚えのある演算阻害効果に意識を奪われながら、美琴は突如教室へ侵入してきた5機の黒塗りの駆動鎧を睨みつけた。

呻く担任。
恐怖におびえるクラスメイト。
どうして、どうしてこんな事に。

脅えよりも怒りが勝ったのは美琴だけではなかったらしい。
隣で演算阻害に苦しむ婚后光子が勇敢にも侵入者に喰ってかかった。


「貴方がた、此処がかの常盤台中学でわたくしが婚后光子と知っての狼藉ですの!?」


しかし喚かれる事自体邪魔と判断されたのか、反抗した彼女へも銃口が向けられる。
「やめなさい!!」慌てて美琴が注意を引く様にそう叫べば、侵入者たちは顔を見合わせて今度は美琴に銃口を向けた。

―――――ナニ?
ゴウン、ゴウン。独特の稼働音を奏でながら銃を突き付けた駆動鎧がゆっくりと美琴に向かって近づいてくる。
1機だけでない。侵入してきた5機全てが、まるで端から美琴だけが目的だったように自分に襲いかかるのを見て、
なら私が死んだら皆は助かるのかな?と美琴はぼんやり思った。

クラスメイト達が周囲にいるこの状況で、暴走を起こしかねない能力を使う事はできない。
自分の所為で友達を殺してしまうかもしれない、そう考えると恐かった。
自分が誰かを殺すより、自分が誰かに殺される事の方がずっと楽だった。
だからなのか、このまま死ぬのかなという疑問にも、どことなく冷静な自分がいた。


「…………ねえ、私以外に殺さないって、約束してくれる?」


「馬鹿な事を言うのは止めなさい!!」婚后の必死な声が耳に心地良かった。
駆動鎧は答えることなく、沈黙を保ったまままた一歩、美琴に近づく。
そしてその銃口が座り込んだ美琴の額へと静かに添えられた時、




876 : 続 御坂美鈴の学園都市7箔8日一人旅 12/12[saga] - 2011/04/29 23:57:15.76 YwvneVLQ0 13/14



ババババババババババ!!!!!!!
ドアの影から、駆動鎧が持ち合わせる様な重量ある大型の銃器を鳴らす生身の白い腕だけが見えた。
その人物は正確な軌道で今にも美琴を殺そうとしていた駆動鎧を撃ち抜くと、今度は別の駆動鎧を手際良く破壊していく。

身体強化系の能力者なのだろうか。否、その前にどうして今能力が使えるのか。
美琴が疑問を昇華する前に、弾がなくなったのか味方とも断定できない人物が銃そのものを生身の人間には出せないようなスピードとパワーで駆動鎧へぶつける。
残り2機。獲物が無くなった彼、或いは彼女は一体どうするというのか。

美琴は目を凝らして何とかその謎の人物を捉え様とする。まだ彼が敵なのか味方なのか、判断付かない。
しかし美琴の視界を未だ活動を続ける駆動鎧が遮った。
重厚な機械がドアの影にいる人物を射とめようと、そちらへと走り出す。
すると、

風の砲弾が、駆動鎧を弾き飛ばした。
勢いよく飛ばされた駆動鎧は無事だった最後の1機に激突し、そのまま両機共々沈没していく。
破壊の際に飛んだ破片で掠り傷を負った生徒の無事を確認しながら、出来得る限り被害の出ない方向へ調整してくれたようだと判断し、美琴が安堵の息を吐く。
そして思い出した様に結局あの人物は誰だったのかとドアを見遣ると、


「…………………い、ない………………」


現代的なデザインの杖を、一瞬だけしか窺うことができなかった。




『―――――でね、そっちで言う所のSATみたいな部隊が助けてくれたらしいんだけど』

「学園都市の特殊急襲部隊って学生がやってるの?能力者って事は子供なのよね?」


『さあ?』と電話越しに首を傾げているであろう娘を想像して、
最近無駄に大人びて来ちゃった美琴ちゃんもまだまだ子供らしい仕草ができているのかしらと御坂美鈴は不謹慎にも何処か嬉しくなった。


『でも絶対能力者だと思うのよ。あんな人間離れした攻撃が生身の人間に出来るワケないし、銃持ってた手もなんとなくまだ子供っぽかったし』
子供、能力者、学生。
特殊急襲部隊に所属するのが年端のいかない子供かもしれないという事は報告書には書かないでおこうと頭の片隅に考えながら、
未だ続きを聞いて欲しそうにする娘に、まだまだ甘えて欲しい母親はクスリと笑う。


「でも良かったわ、美琴ちゃんが無事で」

『まあね。担任の先生もちゃんと手術が成功したし良かったわ。………でもやっぱり気になるのよね~~』


『うう~む』と考え込む美琴に、まあ何か分かったらまた教えて頂戴と通算2時間に渡る電話を美鈴が切ろうとした時だ。
美琴がそういえば、と思い出した様に切り出した。


『特殊部隊に所属してたのに杖ついてたのよね、その人』


『独特なデザインの杖だけ一瞬見えたのよ』続ける娘の声が遠い。
まさか、とつい数時間前に果たしたとある少年との約束を思い出す。
「言ったろォが、護るって」照れ隠す様にそう言う彼の声が、聞こえた気がした。


「――――――美琴ちゃん、その子、あなたのお兄ちゃんよ」

『だから前から言ってるそのオニイチャンって何!?』


答える前にプツリときって、連絡先も素情も知らない<息子>の顔を思い浮かべながら、御坂美鈴はペンをとった。


「よっし。今度こそイイ報告書を書かなくちゃね!」



頑張ったわね、お兄ちゃん。



≪続 御坂美鈴の学園都市7泊8日一人旅≫ (完)



877 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)[saga] - 2011/04/29 23:58:17.83 YwvneVLQ0 14/14

以上です。
需要あるか知れないモンを長々続けてゴメンよ。しかし普段は通行止め書いてる分新鮮で面白かった。
今回の話は美鈴通行というより美鈴と美琴、隠れて妹達と絡めた御坂通行だと勝手に自負してる。

御坂通行増えるといいよ、御坂通行。
因みに一方さんが別れ際何て美鈴さんを呼んだかは皆さんの想像にお任せします。ママンでもお母様でも好きに想像するが良いと思う。