177 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/05/26 01:47:23.62 7bmMYcl60 1/10手垢の付きすぎた題材だけど、一方さんと美琴の対戦で8レス頂戴します
「さてと、今度はコッチの番だ。ちったあ楽しませてくれよな三下ァ」
砂鉄の嵐を磁場ごと粉砕し、鉄骨のミサイルを弾き飛ばし、レールガンさえ反射する、しかも本人は棒立ちのままなのだ。
それらありえない光景を目の当たりにし美琴は確信する。自分のクローンを目の前で殺したこの男こそが絶対能力者実験の対象者であると。
「アンタ、第一位ね?」
「ア?そういえば自己紹介がまだだったな、お前のクローンには世話ンなってンぜ。確かに俺が第一位の『一方通行』だ」
両手を軽く広げた一見無防備な姿勢でゆるりと美琴に近づこうとしていた彼は、その足を止め唇の端を歪めながら蛞蝓を砂糖水で溶かした様な声で「ヨロシク」と続ける。粘液質で生臭く中毒性の甘ったるさだ。
「で、そのわけわかんない能力はなんなのよ?何でもかんでも弾き飛ばすなんて反則じゃない!教えなさいよ!!」
恐怖と怒りと不快感で今にも崩壊寸前の精神を奮い立たせ、美琴は活路を見出そうとする。とりあえずは相手を知ることだ。
真剣勝負の場には相応しくないやり取りであるが、格下相手に油断している状態であれば軽口も叩くのではないか?
可能性のあることは試していこうという、半ば無謀な策は奏功する。
「オイオイ、ンなこと殺しあってる相手に答えるバカがいるンか?ふざけてンじゃねェぞ……と言いてェところだが」
「俺はお前を知っている。情報としてだけじゃねェ。お前に似せた出来損ないの人形を何千体と分解したからな」
「電撃使いがどういうもンか、そしてお前も知らないお前の肉の感触だって答えられンぜ。クハハッ」
「どうでもいい話してないで聞かれたことに答えなさいよ!」胃の奥からの猛烈な嘔吐感を押さえつつ、気丈に振舞う美琴。
(ンだァ?今だに立場の違いが分らないバカなンかよ。どうしてそんな態度を取っていられる?)
目の前の少女の不遜が一方通行は気に入らなかった。息の根を止めることなど容易いがそれだけでは足りない、と思うほどに。
(この最強の俺の気分を害した罪が命一つくらいで贖えると思うなら、そんな幻想は残らず叩き崩さねェとなァ)
「オッケェ、答えてやる。俺の能力は『ベクトル変換』。体を覆う保護膜に触れたもののベクトル(向き)を操作する能力だ」
「対象は運動量、熱量、光、電気量…まあ、俺が観測する全てのベクトルだな」
「運動量などを周囲から集めれば超高速移動や莫大な破壊力を生み出すことも可能だし」
「磁場を操作して砂鉄の嵐を崩したり、レールガンを反射するなンてのは無意識でも出来ちまう」
白い右手の掌を上に向け美琴のほうを指し、彼なりにおどけた様子で最後の望みまで粉砕するべく言葉を放つ。
「ようするに、お前は俺にどうやっても傷ひとつ与えらンねェ。理解したか?三下。チェックメイトだ」
死神の鎌のような白い両手をゆるりと持ち上げ、不可逆な蹂躙を開始しようとした視線の先には怯えた小鹿のように震える憐れな人形達の原型があるはずだった、だが。
「はァ?」
思わず声が出てしまう、ありえない光景だった。
そこには確かに超電磁砲がいた、先ほどまでと何も変わらない様子で。いや、両手を胸の前で組み、足を肩幅ほどに広げ、口を真一文字に結んだその姿からは彼の期待したような弱さは欠片も見当たらない。
これだけ説明してもまだ理解が追いつかないほどの愚鈍であるはずが無い、仮にも第3位なのだ。であるならばアレはなんなのだ。
まだ縋る策を持っているのか、毒ガスを散布して呼吸を阻害するとか?いや、ここは気体が貯まる構造の場所では無い。
自分を害するのであれば周辺一体をガスで満たさなければ意味が無いのだ。だとすると、だとすると……。
一方通行は戸惑い始めていた、理解不能な少女の強気に。
(『ベクトル変換』?なによそれ!?シャレになってないじゃないのよ!)
美琴は本日何度目かの絶望を味わっていた。目の前の白い男の言うとおり、コレは勝負にならない。勝ち目が無いなんてものじゃない。
スポーツに喩えるなら、自分を含む他の選手がスピード、パワー、運、技術、勝負勘、経験などの総合力で戦っているのに第一位との試合では彼に攻撃をしてはいけない、という特別ルールが付くようなものである。
優秀すぎる脳が思考を放棄しかけていた。とうに心理的限界は超えていた。
だが、崩壊寸前の震えだす体を生体電流の操作で整え、相手に決してダメージを悟らせない。
胸を張り気力の充実した瞳で迎え撃つ様は、いつか古いマンガでみた番長のイメージだった。
ここ数ヶ月で美琴は学んでいた、ケンカのやり方というものを。
思い浮かべるのはあのツンツン頭。
初めて会った時から幾度も戦いを挑むも毎度適当にあしらわれてしまう。余裕綽々といったその様子についムキになることもあったが、戦いを重ねるうちにだんだんと気付く。電撃をはじめとした能力攻撃が無効化されるのは右手首より上に限定されること。
そんなあまりに小さな武器を頼りに、自分の前ではハッタリで強者を演じているということに。
そう考えたらますます興味が沸いてきて、鉄橋での戦いではいろいろと試させてもらった。
2時間に渡り多様な攻撃を繰り出すが全てを封じられた、様に見えただろう。
だが実際はどのようにアイツが自分を操ろうとするのか、どうやって絶対強者の振る舞いをしているかを観察し続けたのだ。
冷静になってみれば、アイツのやっていることはサーカスの綱渡りのようなものだった。
挑発をしたり隙を見せたりして直線的な攻撃を誘い右手で捌く、それだけのことだったのである。
そんな単純な事に長いこと気付かなかった自分が恥ずかしくなって、戦闘終盤では出力が上がりすぎた。
が、結局はあの戦闘はキャッチボールのようなものである。そうでなければ(自然災害対策も世界最高峰であろう)学園都市において広範囲で電波障害や停電を起こすほどの落雷を近距離で受けて、無傷であろうはずがないではないか。
所詮は全力投球といってもグローブ目掛けて投げるだけのキャッチボールに過ぎない。
むろん、相手は投げ返してこないのだが。
(アイツはきっと、私の事を馬鹿正直に一直線な攻撃ばかりの扱いやすいヤツ、とか思ってんでしょうね。騙され続けたお返しよ)
美琴は圧倒的絶体絶命な状況にも拘らず、思わず微笑を咲かせた。本当に無邪気な笑顔だった。
「ンだァ?愉快に現実逃避キメやがって!とうとうイカれちまったンかァ?」
脅し文句と裏腹に、一方通行の困惑は深くなっていた。それほどまでに美琴の姿は威風堂々と、その微笑は曇りの無い眩しいものだったから。人を美しいと思ったのは何時以来か、とまで考えて正気を取り戻す。
どんな隠し玉があるというのか、あるなら早く出してみろ。それがどんなものでも、次の瞬間そいつを解析してゲーム終了だ。
そして尾羽打ち枯らした白鳥を澱んだ泥水に引き込む鰐のごとく、徹底的に救いの無い最期を演出してやる。
しかしオリジナルは動かない。その目はこちらに向いていながら、まるでこの対峙を俯瞰するかのようだった。
清々しすぎて逆に不気味な相手に、いい加減キレかけていた。思わず大声を出す。
「チッ、テメェ。とっておきがあるンならさっさと見せろ。こっちはそンなヒマじゃねェ!」
その言葉にわずかな反応を見せた美琴であったが、内心では大きく興奮していた。
(来た!今、一方通行は私の底が見えていない。何をしでかすか分らない、何をしているか分らない相手ほど怖いものは無いのよ)
上条との度重なる対戦で、彼女は自分の能力では彼に絶対に敵わないのではないか?という幻想を強固な物にさせられていった。
時にハッタリで、時に戦略的に。正体を明かさないまま能力者全員を見下すような態度を取る姿に、一時は心底恐怖したものだ。
とはいえそれは所詮は奇術。タネが分ってしまえばそれまでなのだ。だが、種明かしのその時まで観客は無限の妄想に囚われてしまう。
神の奇跡などというのもそういう類のものだったのだろうか。
そしてここは次の手を打つ場面なのだが、まだ有効な手段が見つかっていない。それでも打たねばならない。
ケンカで自ら流れを止めるということは、相手にターンを譲るということだ。そうなれば終わりだ。
鉄橋の上の上条のように、とりあえずでもステップを踏んでおけば何か見つかるかもしれない。
「ひとつ質問していい?」
「話聞いてねェのか?俺はヒマじゃねェンだ。くだらねェ時間稼ぎでもしようってンなら即、終わらせてやる」
自分を大きく見せることには成功しているようだが、それだけでは相手に勝つには至らない。勝負というのは自分のフィールドで行う必要があるのだ。件の高校生でいうならば、道幅の狭い路地裏に誘い込み攻撃の向きを固定させて右手で全てを対処できるようにする、とか。
だが思いつかない。なにしろこの相手には自分の攻撃が届かないのだ。ダメだ、諦めるな、考えろ、何がある、自分が有利になる条件。
ふと、思いついたのはあまりにもくだらない疑問。だが何もしないよりはマシだった。そこからの展開など読めないが確かに自陣に相手を
引き込むことが出来るような気がした。
「いいじゃない、私、わからない事があるとすぐ解決しないと寝覚めが悪いのよね。それにアンタは私のクローンをプチプチ潰してLV上げしてんでしょ?その礼だと思ってさ、ね?」
方便とはいえ妹達を自ら侮辱する発言をして、今までと比較にならないほどの心の痛みが全身を駆け巡る。だが表面には出さない。
体の反応は能力で押さえる。負けるわけにはいかない、ココだけは絶対に負けられないのだ。
「しょうがねェな、聞いてやるから早くしろ」
チッ、と舌打ちをして両手をポケットに突っ込み、さっさと面倒事を済ませてしまおうという姿勢をとる。
そもそも本気で潰す気ならとっくにやっている。それにもし殺してしまえば相手はいつもの人形ではなく人間、それも超有名人だ。
勢い余ってヤっちまったところでなんとでもなる気もするが、出来る限り不必要な問題は起こさないに限る。
コレが最後、その質問とやらが済んだら自分から殺してくださいと願うような生き地獄を味あわせてやるつもりではあったが。
事ここにおいて一方通行最大のミス。正体の見えない相手にたいして自分の力を過信する、愚中の愚を踏んでしまったのだ。
刹那、美琴の眼前に紫電が走る。
それ自体攻撃では無かった。続いて津波のように湧き出す大量の砂鉄にもわずかの敵意すら感じられなかった。
能力によって操られた砂鉄の波は、対峙する二人の間に浮かび上がり徐々に意味を成していく。
「ほゥ、器用なもンだ。なんだこれは、回路図か?」
「そうね」
二人の間には空中に、電磁波によって形作られた砂鉄による非常に単純な回路図が描かれていた。直線と丸だけで描かれたそれは月明かりを浴びて怪しく鈍色に光る。
「これは乾電池とスイッチ、導線と豆電球を繋いだ小学生でもわかる回路図ね。スイッチを入れると豆電球が点灯する」
空中の図の中でスイッチ部分の砂鉄がゆっくり動き、回路を繋ぐ。すると導線部分が発光し通電したことを表す。
豆電球の部分はひときわ明るく輝いていた。
(ナニコレスゲェ!器用なんてもんじゃねェだろ。)
美琴の圧倒的に場違いな、しかし極めて精緻な技術を要する小ネタは第1位にとっても暫し心を奪われるに足るものだった。
光の芸術、なんて言葉があるが目の前で即席で仕掛けまで作ってしまうその能力の奥深さに感心を隠せなかった。
いつか自分もマスターして誰かに見せたい、と思ったかどうかは定かでない。
「さて、質問なんだけど」
不意に現実に戻されて、一瞬緩んだ表情を、眉間に皺を刻み強引に戻しきる。質問に答えたらこのくだらない時間がやっと終わる。
手足を1本ずつくらいフッ飛ばしてやろうか、整った顔を二度と見られないように潰してやろうか。それとも?
命を奪わない残虐行為をいくつも思い浮かべていた彼は、その質問によって奥深い思考の迷宮に叩き落されるのだった。
「この回路図の中にアンタを反射設定で入れた場合、電球は光るのかな?あ、電気抵抗は無視できるものとするわね」
何を言ってやがる、と回路図を目で追いながら気楽に答え方を選んでいて絶句した。
(俺は反射設定、電流が来たら当然俺のところで跳ね返る。ということは電流は回路を一周しないから電球はつかない。いや!)
(そもそも電球がつかないということは電流が流れていないということになる)
(電流が流れていないのならば俺のところにも来ていない、つまり俺は反射していない)
(しかし、俺が反射していないならばこの回路には電流が流れてしまう、あー、面倒クセェ!)
「実際に試してみればわかンだろうがァ!」
答えの纏まらない彼は、美琴の作った回路図の働きを実際に行う回路そのものを能力によって作り上げようとした。
幸い辺りはコンテナやら鉄道のレールやら金属製品には事欠かない。その能力を使ってアメ細工のように導線部分を作り上げる。
豆電球やスイッチは無くとも構うまい、どうせ通電が確認できればそれでいいのだ。それは能力で対応可能だ。
問題は電池だった。
最初自らの生体電流を整えて流そうかと思ったが、自分役がいなくなるので断念。
続いて砂利を巻き上げて流体とみなし、それを空中で高速回転させることで静電気を発生させようとした。
が、これから電流を取り出す手段がなかなかみつからない。電流は確かに発生しているが電荷にまとまりが無く綺麗に整えるのが困難なのだ。
(ナメてンじゃねェぞ、俺を誰だと思ってやがる。)
超高速で回転する砂利の塊を掌で探っていく。何万、何十万の石礫の中から負電荷を生み出すものを選んでいく。
いつしかそれは電気的に整頓され尽くしたまさしく電池と呼べるものに近づいていった。余計なものを落としてしまえばあとは回路に繋いで通電の有無を確めるだけである。第1位の演算能力は伊達ではない。本気をだせばこんなものなのだ。
(ほれ見ろ!カンタンなんだよ、あと少し、楽勝だ……はァ??)
美琴は窮余の一策が予想外の展開を生んだことに唖然としていた。自分が有利になれる展開を散々考えても思いつかず、苦し紛れに出した素朴な疑問によって、無敵の一方通行が狼狽している。
それだけではない。何を思ったか問題の回路を作り上げようとした彼が、今必死で準備している電池の石礫。
その一片が嵐の中から不意に飛び出し彼の頬を傷つけていたのを見逃さなかったのだ。
理由は分らないが、彼の反射は一時的に機能していない。
これも上条流ケンカ道(?)から学んだこと。対戦中は相手のことをよく観察して見逃さない。次に何をしてくるのか、どこを狙っているのか、何を考えているのか。それが読めれば戦闘において常に一歩先を確保できるのだ。
決定的なチャンスを前に、もはや勝利はすぐそこに見えていた。
自分を大きく見せつつ同時に相手の油断、慢心を誘い、常に狙いを定めさせないよう手を打ち続け、相手をよく観察する。
得意なフィールドに誘い込んで、決める時は一気に決める!
迷いの無い瞳でレールガンを構える美琴から放たれるオレンジの光線を確認することは彼には出来なかった。
頭の横をギリギリに飛び去るそれの衝撃波によって彼が意識を失うのがそれほど速かったということである。
直撃を避けたのは美琴の甘さであったが、細身の彼が攻撃の余波で吹き飛ばされコンテナに頭を強打した様子を見るに生死など問題では無いのかも知れない。
一方通行「打ち止めァアアアアア!なに物騒なもン書いてるンですかァ???」チョップ ビシビシ
打ち止め「痛い痛い~、ってミサカはミサカは毎度毎度の涙の抗議をしてみる」クスン
一方通行「ウソ泣きで誤魔化すンじゃねェ、なんだこの話はァ?俺を殺したいンなら直接言いやがれ」
打ち止め「そういうわけじゃないよ、ってミサカはミサカは首を横に振りながら釈明を始めてみる」
打ち止め「えとね、お姉様が直接関わった事件って幾つかあるけど、じつはお姉様自身が解決できたものって殆ど無いの、ってミサカはミサカは不憫なオリジナルを偲んだり」
一方通行(言われて見ればあのくだらねェ事件は乱入三下が止めたンだし、悪夢の復活を止めようとした残骸事件も科学結社はアンチスキルに結標は俺が潰しちまってる。本人は知らないだろうが母親の危機だって……)
打ち止め「でね、あまりに行動に結果が伴わない哀れな青春を送る事になっていて痛々しいからせめて妄想の中だけでも勝たせてあげたかったんだよって、ミサカはミサカは姉妹の絆的発想を表明!」
一方通行「ケッ、くだらねェ。しっかしこの話の中の砂利電池ってホントに機能するのかァ?」
打ち止め「分んないけど、作り話だからそのくらいのトンデモ発想は許されるんじゃないかなって」
一方通行「あと、俺の反射が解除されてンのに理由はあンのか?」
打ち止め「それはアレだよ、レールガンを見て『おい、フザけんな、今俺は電子顕微鏡クラスの精密作業を云々~』」
一方通行「お前だけはそれをネタにすンな!」ビシッ
打ち止め「痛いっ!チョップは止めてって、ミサカはミサカは悪ふざけを猛烈に反省」シュン
一方通行「良し、ンーと、このオリジナルの出した問題も答えは用意してねェンか?」フム
打ち止め「ミサカはお姉様じゃないし、あなたでもないから。ってお出かけ?」
一方通行「あァ、豆電球を買いに……どこに売ってるンだろうな?」
187 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/05/26 01:59:01.90 7bmMYcl60 10/10以上です。誤字も脱字も設定の甘さも考察の浅さも全部幼女の責任にしちゃいました。
オチが思いつかなかったんだもん…