792 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] - 2011/07/24 21:45:59.18 4qkU2ZKI0 1/1110レスぐらい頂きますわ
>>707の続きと言えば続き、でも普通に単独で読めるはず
※>>707
アッシュトレイの中の懺悔室
http://toaruss.blog.jp/archives/1035766717.html
ステイルとインデックスのバッドエンドのような、でもエンドではない話
色々説明不足かも、と予防線を張りまくったところで行きます↓
「…………チッ」
携帯灰皿を忘れてきたな、と思ってステイル=マグヌスは軽く舌打ちした。
これでは今日は、あの耽美な芳香(せかい)に心おきなく浸れそうもない。
(………………違うな)
そんな事はどうでも良い筈だ。
ここはロンドン、イギリス清教本拠地にして魔術の総本山、聖ジョージ大聖堂なのだ。
東洋の小さな島国の、魔術の“ま”の字も存在しない――はずの――あの街ではない。
人目を気にする事のない以上、邪魔な燃え滓など彼の炎にかかれば塵も残さず処理できる。
では、何故?
なにゆえ、自分はこうも苛立っているのか。
「…………ステイル、ですか?」
後ろから、懐かしい声。
とは言え、二か月ほど会っていなかっただけだ。
“彼女”を追跡していた頃は、それこそ毎日顔を合わせていたのだが。
「やあ、久しぶりだね神裂。『ブリテン・ザ・ハロウィン』ではご活躍だったそうじゃないか」
アンバランスな左右非対称のトンデモファッションは相も変わらず、ステイルの戦友神裂火織が其処にいた。
その表情は激しくも切ない慟哭を裏面にちらつかせており、さながら冬の北極海といった風情である。
「えー、その…………いいお天気ですね」
「そうだね。ロンドンは今日も霧だった、という所かな」
久方ぶりにあった同士に向けて彼女は、口籠りながら当たり障りのない時候の言葉から入った。
が、外は一寸先を見通すのでやっとの、それなり以上に濃い灰色だ。
実際にはそうそう濃霧に見舞われることのないロンドンでは、年に一度あるかという天候であった。
(確かに、いい天気だ)
自分の心象をそのまま切り取ったようではないか。
珍しく詩的な感傷に浸かりながら、的外れな挨拶をしてしまった事に慌てふためく神裂をぼうっと見やる。
彼女とて、今回の一件で受けた衝撃が大きくない筈がない。
「コホン! し、失礼しました。これから、あの子のところに?」
「…………ああ」
「私も、同席してよろしいでしょうか」
だが神裂火織は、己の苦しみを脇に退けてまで少年に手を差し伸べた。
『救われぬ者に救いの手を』。
彼女の信念通りの、予想に難くない申し出である。
「君まで憎まれ役になる事はないだろう。僕こそが適任さ」
故にステイルはその手を振り払った。
これからの行いにこの強く、それ以上に心優しい聖人を巻き込むつもりは無い。
こめかみに手をやって溜め息を吐いた彼女に、ステイルは背を向けた。
(適任、か。体の良い逃げ口上だな)
聞こえはいいが要するに、ステイルは醜態を余人に晒したくないだけなのだ。
深い哀愁の刻み込まれた後ろ姿に、結局神裂はそれ以上の言葉を掛けてはこなかった。
コンコンコン。
ドアを三度、裏手で軽く叩く。
「どうぞ」
美しい意匠のアイボリー製のドアノブに手をかけて、ステイルは目的の部屋に足を踏み入れた。
がらんどう、とはこの事であろうか。
明り採りの為の質素な木枠の窓、白人の肌よりやや濃いベージュの壁紙、白いベッド。
この部屋の主の、五分後の心象風景に相応しいな、とステイルは思った。
「…………久しぶり」
ベッドの純白が、動いた。
光を放って、窓から射す幽かな幽かな陽光に同化する白地の修道服。
心なしか色褪せて見える銀髪。
ハイライトの量が、こちらは目に見えて絞られたエメラルドグリーンの瞳。
「また、会ってしまったね。『禁書目録』」
ステイル=マグヌスが、世界の他の全てを掻き集めた万象と較べて尚。
――――否、比較するまでもなく護り抜きたい輝きがそこにあった。
インデックスは可憐な翠玉をステイルの口許の煙草に向けるだけで、言葉を発しない。
必然、神父が一人説教を打つだけの舞台がそこに出来あがる。
「調子はどうだい、などというお決まりの挨拶は僕らには必要ないものだね。早速だが、悪い報せがある」
彼女と会話をする際、ステイルは大抵黒衣の袖に隠した手を、固く固く握りしめている。
掌中に閉じ込めておかなければ溢れそうな何かが、胸の内側でずっと燻っているからだ。
「覚悟を、決めてくれ」
それにしても、インデックスの四肢から顔つきに至るまで、まるで動きが無い。
話題の予測はそう難しい事ではないだろう。
世界で最も愛おしい少年こそが、この数日間シスターの脳内を独占している筈なのだ。
ならばステイルが告げた不吉な文言に、何かしらのリアクションがあって然るべきだ。
そうステイルは考えていたのだが、
(…………僕の知った事か。僕に出来るのは、真実を教える事のみ)
関係ない。
インデックスの心中がどうであろうと、ステイルがしてやれることは他に何も無い。
ただ真実を、事実を彼女に。
「君にとっては辛い事だろうが…………」
「ねえ、ステイル」
シガレットが上等なカーペットにふわりと着地して、魔術的防護が組まれているのか一条の煙も上げずに鎮火した。
透き通った鈴のような声色がその言詞を読み上げたのは、果たしていつ以来なのか。
「なんだい」
束の間開け放たれた口腔を強く閉め直して煙草を拾いながら、ステイルは必死に動揺を押し殺した。
火を付け直そうとライターを取り出すが、手つきはまるで覚束ないものだった。
「どうして、私の為にここまでしてくれるの?」
「何を、かな」
心の震えが、毛細血管を通して指先にまで伝播したようであった。
何なんだ。
いったい彼女は、何を言おうとしている?
「なぜ、こんな薄汚れた女の為に」
「だから、何を」
喉にまで、収まる事を知らぬ微細な震えが到達した。
ステイルの心の臓を鷲掴みにして揺さぶっていたのは、紛れもない恐怖だった。
「『生きて死ぬ』、なんて言うの?」
今日のステイル=マグヌスに、懺悔室という名の逃げ道は開かれない。
「勘違いも、甚だしい。図に乗るなよ、『禁書目録』。僕の、人生は、僕だけのものだ」
肺が絞られたかのようだ。
声を上手くひねり出せない。
震えはいまや、全身を支配して鈍い痛みに変わっていた。
「大聖堂の崩れた広間に、あなたの魔力の残滓を見つけたの」
「僕は頻繁にこの聖堂に出入りしているんだ、魔力の痕跡が残っていても」
「『魔女狩りの王』の術式だった」
淡々とロジックをなぞる姿が、ステイルにとってこの上なく忌々しい『自動書記』に重なる。
『彼女』と対峙した時と同じく、打つべき手を丁寧に的確に潰されていく。
「『私』と闘ってたんだよね」
「違う」
考えろ、知恵を絞れ、お前は魔術師だろう。
「どうして、って気になったから。抑えられなくなったから。会う人会う人に、あなたの事を聞いたの」
「無駄だ、そんな事」
どうしたら、彼女のQEDを留められる。
「そしたら教えてくれたの、最大主教(アークビショップ)が」
ローラ=スチュアート。
その名を聞いて、インデックスが疑念を御せなかったのと同様、遂にステイルの箍が外れた。
「だから、違うッ!!! あんな雌狐の言う事を鵜呑みにするな! 奴は、君に『首輪』を嵌めて地獄へ――――」
揺れる器から毀れた一握の砂は、致命的なミスだった。
摩耗した砂粒の呻き声はステイルの懸想を、どんな愛の囁きより雄弁にインデックスの耳に届けた。
「やっぱりあなたが、『前の私』のパートナーだったんだね」
「違う、違う違うちがうチガウ!!」
認めるな。
それを認めてしまえば、彼女は――――!
「ステイル」
「僕の名を呼ぶなァッ!!」
全ての『記録』を与えられてしまった眼前の修道女は、哀れなピエロを放っておけないと思っているのだろう。
情け深さゆえに、目に付いた病身を癒そうとしてしまう。
まさに、少年の愛した少女の在りようだった。
それこそ、ステイルが最も恐れている事態だとも知らずに。
「君は、アイツの傍で、笑ってアイツの名前を呼んでいればいいんだッ!! 僕の煤けた人生になど二度と関わらず、あの科学の街で幸福を掴むべきなんだ!」
止めろ。
言うな。
堰き止めろ。
思いの丈をぶちまければぶちまける程に、彼女は悟ってしまう。
「“忘れて”くれ、頼むから…………!」
それだけが、ステイルの望みだった。
ささやかな幸福だった。
永遠に自分の事など忘却したまま、健やかに生涯を送ってくれればそれでよかったのに。
「…………無理だよ」
インデックスが泣きそうな顔で笑いながら、一度抱いてしまった慈悲を捨て切れず首を横に振る。
彼女はもう、ステイル=マグヌスを“忘れてしまった”という悔恨を、死ぬまで“忘れられない”。
「そんなにも傷付いてるあなたを、私の事を考えてくれるあなたを、一人になんて出来ないよ」
「――――――――――――ァァッ!!!!!」
ステイルが膝から、倒壊した心を模したかのように倒れ込んだ。
狭い室内に響いたのは、谺。
裏側にどんな貌をも隠してはいない、ありのままの獣の咆哮。
只管に、彼女の笑顔を歪める呪わしい魔術師の顔面を、哮びと共に掻き毟る。
「ステイル、やめて!」
それでも壊れた心で、ステイルは少女への想いだけは守り抜いた。
「…………君に、伝えなければならない事がある」
そしてこれからもう一度、インデックスの心を、あるいは己の魂を、処刑台に乗せてその手で断つのだ。
(ああ神よ、こんな血に汚れた魔術師なんてどうでもいい。どうか彼女の笑顔だけは、どうか、奪わないでくれ)
夜毎に何度、十字を切って祈っただろう。
しかし現の世界はどこまでも残酷に、非情に、逃げ出した失敗者の姿を白日の下に曝け出そうとする。
「北極海の合同捜索隊が結論を出した」
自分がやらなければならない、神裂だろうが他の誰にだろうが譲れない。
その一心で、インデックスの前に再び姿を見せたのだ。
蹲ったまま、ステイルは血が滲む程に強く結んだ右拳を、柔らかな絨毯に思い切り叩きつけた。
「生存者、ゼロだ」
「……………………え?」
彼は振り下ろした拳で、彼女の大切な世界を粉々にした。
少年の瓦礫の如く散乱した心もまた、無数に入った罅からピシリピシリと悲鳴を上げ。
「――――とうまは?」
インデックスの静かな叫びと、その音は小気味よい程に共鳴し。
「とうまはどこ?」
そうして懺悔を吐き出すべき世界(ほうこう)を失った少年は、今度こそ壊れた。
802 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] - 2011/07/24 22:01:23.14 4qkU2ZKI0 11/11致命的に誤った方向にデレたインデックス(NOTヤンデレ)と、
自分で惚れた女を幸せにしてやるという発想がこれっぽっちもないヘタレステイル
上条さんが帰ってきてもこのお話の二人は一切報われません
救いの全くない話を書くのがこんなにも楽しいとは思いませんでした
以上、新訳二巻が出る前にぶちまけておきたかったハラの中身でした
次こそステイルが報われるといいね!