303 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2012/12/16 06:26:54.31 UK42+5u6o 1/7上条さんと初春で数レス借ります
追い詰められているのは自分のせいだと、初春飾利は悔む。
その日はジャッジメントとしての活動も無く、久しぶりにと、友人である佐天涙子と一緒に街に出かけていた。
そうして、時間が過ぎ、日も暮れ始め、寮の門限も迫り、別れた矢先、何やら物騒な声が聞こえてくる。
「あれは……」
少し見えづらいが、恐喝……? 自分と同じくらいの年齢、小柄な身体付きの少年。
彼らからしてみれば格好の餌食であるに違いない。
では、何故、いつも取る行動に移さなかったというと、すぐには判断できなかったからだ。
理由は2つ。相手が1人であるという事。そして、相手が少年と同等、もしくはそれ以下であるという事だ。
(……もう少し近づいてみましょう)
あくまでも自然に。決して焦点は合わせないように、けれども視界からは逃さないように接近する。
ある程度の鮮明さを窺えるまでに近き、そうすると、更に疑念は深まっていった。
―――!!!――――!!!!!
恐喝しているのには違いない。しかし、彼が抵抗しない理由が解らなかった。
明らかに、全ての部分で貧弱と言える彼よりも更に弱々しく細っていたからだ。
遊んでいるのかと思えたが、自分が同じような立場に立ったとして、反撃する事ができるかと言われれば、言葉を濁すだろう。だ
からこそ、初春飾利はいつもとは違う立場に立ち……
「じ、ジャッジメントです!!」
いつもより、数段に緊張する。自分はいつでも安全な場所にいたから。
体力作りから拘束方まで、一通りの訓練はしているけれど、役にたった試しはない。
何故なら、自分はそういった場面では必要とされていないし、する事もできなかったから。
裏方で務める事に不満はないが、光を浴びたいと思った事は一度では無かった。
「……はぁ?」
「そ、その手を離しなさい!! あなたのやっている事は恐喝行為です!」
「……」
その振り絞った怒声に男はあっさりと従った。
掴まれていた手が離れれば、貧弱な少年はペタンと尻もちをつき、這いつくばるように急いでそこから逃げ出した。
「あなたを連行します」
「……くくく」
「な、なにが可笑しいんですかっ!!」
「悪い悪い。……人は見た目で判断するものじゃないってな。あんたみたいながジャッジメントだなんて」
「ば、馬鹿にしないで下さいっっ!!」
「馬鹿にしてるつもりはねぇよ。じゃあ、聞くけどあんたに俺を捕まえる事ができんのか?」
「っっ。で、できます」
確かめるような相手の発言は更に心拍数を上げた。
大丈夫、練習した事をやればいいんだ。と、心に言い聞かせる。まずは腕を取って……
「っつ」
男の手が初春の首を掴む。
初春が先手を取ろうとした瞬間、男の身体が体格に見合わない、
少なくとも初春には反応できない速度で、掴もうとする手を払いのけ、それとは逆の手で首を掴んだ。
「かはっ」
肺から空気が絞り出される。掴んでいる手は、抵抗しようとする両手を意にも介さずに上昇していく。
「人を見た目で判断するなって言っただろ? 余所ならともかくここは学園都市だぜ? 見た目に反する奴なんていっぱいいるだろ」
そんな事は自分だって分かっている。そんな人物もたくさん見てきた。
けれども、危険を冒してまで1人で行動したのは、自分だって認められたい。
普段、認めている人達から認めてもらいたい、だから……
「……ぁ」
ぼんやりと意識が薄れゆく中で、自分に対するふがいなさと、愚かさと、恐怖。
反芻していくその気持ちを嘆きながら、興味が失われていく男の顔を見ながら、
意識が無くなる最後に覚えたのはそのどれでも無く、ぼんやりとした新しい声だった。
――
「う……うーん……」
「おっ? 起きたか」
「あ、あれ? 私は……」
「いやー、なかなか起きないから上条さん、心配しましたよ」
辺りはもう真っ暗で、街灯の明かりと、少し固いベッドである木製のベンチがここが公園である事を認識させた。
何とか身体を起こそうとする初春の頭の下には折りたたまれたタオルが敷かれ、身体には女子には少し大きめ制服が掛けられている。
(……そっか……私、気絶しちゃったんですね……)
「あ、あの、有難うございます。あなたは……確か御坂さんと一緒に居た……」
「上条当麻だ。えーっと、御坂の知り合い?」
「はい。御坂さんとは友達です。あ、私は初春飾利です」
「初春さんか。それより身体は大丈夫なのか? あんまり良さそうには見えないけど」
「おかげさまで。助けて頂いて有難うございます」
「いえいえ、上条さんは当然の事をしたまでですよ。それより無事で何よりだ」
「……当然、ですか…………上条さんは強い人ですね」
「へっ?」
「御坂さんが言ってました。『あいつに絶対勝ってやる」って。それにさっきも……上条さんがあの人を倒したんでしょう?」
「う、うーん……ま、まぁ……」
「やっぱり…………。上条さんに……いや、比べなくても私は駄目ですね……私利私欲で行動しちゃうし……結果的に助かったのはいいものの上条さんが来てくれなかったら……うぅぅ」
段々と声が弱くなり、嗚咽する。強い上条を見てると、あらゆる自分の欠点がより酷く見えてきて……とてもじゃないが我慢する事は出来なかった。
「ひっぐ、ご、ごめんなさい。す、すぐに泣きやみますから……」
とは言っても、そうすぐに止める事なんて出来るはずが無いのだ。一度溢れた感情を塞ぐ事は難しい。
共感する事は出来ないが、感覚的には分かる事がある。ありきたりではあるけれど、
「いいって、待ってるから。好きなだけ泣いてくれ」
「うわぁああああ!!!」
――
「ほら、これ」
そう言って、ホットココアを渡す。初春は恥ずかしそうにそれを受け取った。
「あ、有難うございます……」
(わ、私は人前で何て事を……)
本気で恥ずかしいと、久しぶりに思った。
紅潮した顔はもはや飲み物では到底隠す事はできず、防いでいるつもりにさせるだけだった。
「さぁーて、そろそろ帰りますか」
「あっ、はい。そうですね」
「家まで送ってくよ。もう夜も遅いし」
「ど、どうも……」
――
「あ、ここで大丈夫です」
「そうか。じゃあ、ここでお別れだな」
「はい。有難うございます。それでは」
一刻も早く帰りたかった。
恥ずかしいと思う理由については分かっていたのだが、何故だか、上条の顔をまっすぐに見る事ができなかった。
しかし、今まさに歩き出そうとする初春に対し
「あ、ちょっと」
「え?」
「あんまり上手く言えないけどさ。初春さんは自分の事を弱い人間だと思っているのかもしれないけど、欠点が無い人間なんていないだろ?
だから、初春さんが恥だと思っている事は皆が持ってる事だと思うし。え、えーっと、と、とにかく! そんな小さな事で悩む必要は無いって事!」
「そうでしょうか……」
「『強い』俺が言ってるんだから大丈夫! だろ?」
「……ふふっ。そうですね。はいっ! 分かりました!」
「それじゃあ。そろそろ同居人に殺されそうなんで帰るわ。御坂によろしくな!」
「はい。おやすみなさい」
全速力で走る上条に対し、初春はその姿をずっと見続けていた。それこそ、余韻が無くなるまで。
既にがけっぷちまで来ていた感情を最後の最後に落とされてしまったのだ。
初春はまだこの事には気付いていなかったが、それも時間の問題。
何故なら、こんなにも彼に会いたいと思ってしまっているのだから。
309 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2012/12/16 06:36:22.18 UK42+5u6o 7/7以上です。
お目汚し失礼しました