237 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] - 2013/05/01 20:13:04.56 SG8NEmeAO 1/14喫茶サテンが久々に開店した喜びのあまり書いてしまったものを投下にきました
10レス前後いただきます
第七学区の北西端にある、口は悪いが根は優しい店主が経営する、小さな喫茶店。
そこへ、ようやく少女という殻を破ったばかりの女性が、いつも通りに来店した。
「やっほー、また来ましたよ♪」
「いらっしゃい、ご注文は」
女性は、当然のようにカウンターの真ん中の席に腰を下ろし、
「いつもので」
当たり前のようにそう注文する。
ちなみに、彼女の“いつもの”はマンデリンのブラックである。
「……かぁーっ! この苦さがたまんないね!」
届いたコーヒーをひと口飲み、通ぶった言葉を吐く女性。
「……オイ佐天、その言い方だと飲ンだくれのオヤジみてェだぞ」
本日最初の客である彼女、佐天涙子の発言にツッコミを入れる店主。
「あー、マスターったらひっどーい。女の子に向かってオヤジっぽいだなんて、声に出したらダメじゃないですかー」
「思ってもいいのかよ」
「思うだけなら問題ないですよ、あたし精神感応じゃないから分かんないし。でもまあ、さっきのが言われた通りって自覚はあります」
「そンなら自重しろよ、オンナノコさン?」
「はーい。かしこまりますたー」
軽い調子で忠告を聞き入れる佐天に溜め息を吐き、取り出した生豆を煎り始める店主。
「お、新しいブレンド試すんですか?」
「あァ、そンなとこだ」
佐天は店主の仕事ぶりに食い入る。
彼女に見られていると気付きつつ、素知らぬ顔で彼は作業を続ける。
しばらくして、入口のカウベルが来客を知らせる。
「あ、いたいた。お待たせー、さて、ん……」
シャンパンゴールドの髪の女性が、佐天に声を掛けながら近付き、そして。
「待てコラ。ご注文は」
即座に反転して去ろうとする彼女を捕まえ、無理矢理佐天の隣に座らせる店主。
「なんでよりにもよってココなのよー……」
見るからに不満げな表情になった彼女と店主を交互に見やり、
「え、あれ? マスターと御坂さんって、知り合いなんですか? 因縁の相手って感じの」
「まァ、な」
バツが悪そうに肯定し、彼女達から目を逸らす店主。
「まあそれはともかく、御坂さん何頼みます?」
「んー、そうね……ハワ」
注文しようとした女性・御坂美琴の前に、一杯のコーヒーが置かれる。
「……まだ頼んでないんだけど」
「ハワイコナのラテ、だろ?」
「なんで分かるのよ?」
「アイツらはみンなそれだから、オマエもそうだろうと思って出したンだが」
「……正解よ、ちくしょう」
自分の嗜好を当てられてむくれつつ、出されたコーヒーを口に含む御坂。
そんな二人のやり取りを見て、面白くなさそうに口を尖らせる佐天。
「なあんだ。因縁の相手って割に仲良いじゃないですか」
佐天の言葉にはっとし、御坂は慌てて弁解する。
「あー、えっと、その因縁については一応の決着がついてて、だから、その、そこまで仲悪くもないっていうか」
しどろもどろの御坂に呆れた店主は、彼女をフォローする為に口を開く。
「いつまでもいがみ合ってるとアイツらに暗い顔されるから、いい加減に止めにしようって事で手を打ったンだ」
「ふーん」
納得いかない表情で佐天はカップを持ち上げ、
「……アイツら?」
店主の言葉の中に突破口を見つけた。
自身のミスに気付いた店主は、質問されまいと作業に没頭する。
二人だけの秘密。
そう悟った佐天は、御坂を逃がすまいと隣に目を向け、
「あっ、いつの間に!」
「やばっ」
入口まであと僅かの場所にいる御坂を見つける。
「逃がしませんよ、御坂さん!」
すぐに椅子から飛び降りて御坂を捕まえる佐天。
「……仕方ないか」
観念しておとなしく佐天と共に席に戻る御坂。
「それで、アイツらって誰なんですか? さっきのマスターの話しぶりだと、お二人の因縁と関わりがあるみたいですけど」
少しの沈黙の後、御坂は口を開いた。
「ずっと前、私のクローンが造られてるって噂があったでしょ?」
「ああ、ありましたね。でもあれって、結局単なる噂」
「本当なのよ」
「……マ、マジですか」
「うん。それでね、アイツ……マスターは、その子達の保護者をしてくれてるの」
「ん? それだったら、因縁なんかないんじゃないですか? お二人の因縁ってもしかして、クローン……もとい、妹さん達がマスターになんかされたとかですか?」
「うっ。そこらへんは、アイツも話したがらないし、私もあんまり話したくないから、出来れば訊かないでほしいんだけど」
「そこが肝心なんだけどなあ……まあ、マスターや御坂さんが嫌がる話題なら、これ以上の詮索は止めときます」
「ごめんね」
「あー、つまり。御坂さんとしては、愛しの妹を取られて悔しい! みたいな感じですか」
「まあ、そんなとこ」
「シスコンですね」
「うぐ。いや、そういう訳じゃ」
ある程度掻い摘んで説明し、一応は納得してもらう事に成功した御坂は、ホッと胸を撫で下ろす。
が。
「さーて、そろそろ本題に入りましょうか!」
安心したのも束の間、佐天にここへ来た本来の目的を切り出される御坂。
「ええー!? どうしてもココでするのー!?」
「もちろん! そもそも、その為にあたしだけに声を掛けたんでしょ?」
「それはそうなんだけど……せめてお店変えましょう? ね?」
「御坂さんに店を選ぶ権利はありません!」
「そんな殺生な~」
御坂があからさまに嫌がるので、興味が湧いた店主は彼女達の話に首を突っ込む。
「なンだ、俺に訊かれたら不都合な話題なのか、その『本題』ってやつは」
「いやー全然そんな事」
「ある! ココじゃ困るの!」
いつの間にか顔を真っ赤にした御坂は頑なに嫌だと叫ぶ。
「オイ佐天。本題ってのはもしかして、コイツの恋愛沙汰か?」
「おっ、さすがマスター!」
「なんで分かっちゃうのよ!」
「そンだけ顔真っ赤じゃイヤでも分かるっての」
「御坂さんって、思ってる事がすぐ顔に出ますからね」
「えっ……そんなに出てる?」
「「誰が見ても分かる程度には」」
言われて今までの自分の行動を振り返り、思い当たる節ばかりな事に頭を抱える御坂。
「はあ……分かってはいるんだけどなあ。どうにも体が先に動いちゃうのよね」
「思い立ったら即行動! てのが、御坂さんの良い所ですよね」
「それが恋愛沙汰には一切発揮されねェのがダメな所だがな」
「ぐぬう……」
佐天に誉められ、店主にダメ出しされ、複雑な表情でコーヒーを飲み、
「ンゴッ!?」
途端に顔が真っ青になる御坂。
「あ、それあたしの」
泣きそうな顔で口を押さえ、ゆっくりと飲み込んでいく御坂。
「うう……不幸だ」
彼女の呟きを聞き、顔を見合わせてにやつく佐天と店主。
「あれあれ~? 御坂さんってば」
「想い人の口癖が伝染ってませんかァ?」
「なんで息ピッタリなのよ~……」
御坂にとっては、まさに泣きっ面に蜂であった。
しばらくして。
御坂が落ち着いたところで本題、つまりは恋愛相談が始まり、彼女が悩みを打ち明ける。
「はァ? まだ告白してなかったのか?」
「いや、御坂さん。さすがにそれは純情過ぎやしませんかね?」
二人から痛い所を突かれ、縮こまる御坂。
「だ、だってえ~……」
「だってじゃねェだろ。そンな調子で何年二の足踏ンでやがる」
「んー。あたしが知る限り出会いが中二の時だから、かれこれ六年くらいですかね」
「うっ」
「オイオイ。せめてそれらしいアピールぐらいはしてンだろうな?」
「それは……してる、けど」
「まあ、してもあの上条さんですからね。気付いてない可能性が高いかと」
「だなァ。例えばどンなアピールをしたンだ」
「お揃いのケータイ買ってあげたりだとか、アイツんちの家電を最新のにしてあげたり、安物だけど、このペアリングを」
「ってオイ。安物云々以前に、指輪の時点で重いっての」
「ていうか、やる事極端ですよ。もうちょっとこう、少しずつ少しずつ上条さんの私生活を侵食していく感じにしないと」
「いや、それもそれでどォかと思うが」
「ならどうしろって言うのよお……」
先程より小さくなった御坂が、二人に更なるアピール法を求める。
「うーん……アピールに気付かれないんじゃ話にならないし」
「……もう、告白するしか手がねェだろ」
「ええええええっ!? む、無理、無理だよお~!!」
指先まで真っ赤になりながら、全身を使って拒否する御坂。
「マスターの言うとおり、やっぱり告白しかないですよね!」
「出来ないよお~……」
御坂の様子に溜め息を吐き、発破をかけるべく口を開く店主。
「だったら、他の女に取られてもいいンだな?」
「………………やだ」
「なら、覚悟決めてさっさと告白しろ。もう躊躇ってる時間はねェぞ」
「そうですよ! 上条さん結構モテてるみたいだし、早くしないとヤバいですよ!」
佐天からも追い込まれ、意を決したように立ち上がる御坂。
「……分かった。今すぐ言ってくる! 二人共ありがと! どうなったか必ず報告に来るから!」
今度こそ自分のカップを取って中身を飲み干し、代金を置いて店を去る御坂。
「……上手くいくといいですね」
「大丈夫だろ。なンだかンだ言って、上条も御坂を好いてるみてェだしな」
「さて。美味しいコーヒーを飲みつつ、結果報告を待ちますか。ってわけで、おかわり!」
「ハイハイ」
そこは第七学区の北西端にある、小さな店舗に、大きな間口を持つ喫茶店。
喫茶『かたみち』、またのご来店をお待ちしております。
250 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/05/01 20:48:12.69 SG8NEmeAO 14/14以上、お粗末様でした