351 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/05/18 02:14:23.24 KJFcY/Y1o 1/20

ふと思いついた話を勢いだけで書いた。数レス貰うね

元スレ
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-39冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1363523022/
352 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/05/18 02:14:57.51 KJFcY/Y1o 2/20



雨が降っていた。


六月の梅雨まっただ中。
中学二年生の上条当麻は、一人傘を差して歩いていた。
雨が降っていても涼しくはない。ジトジトとした嫌な蒸し暑さが全身を包み込む。
汗が頬を伝い顎から落ち、ワイシャツが肌に貼り付いて気持ち悪い。
日本では毎度おなじみの時期で、上条も生まれてから今まで何度も経験したことのあるものだが、それでも不快なものは不快である。

それでも、これはマシな方だ。
なぜなら上条はまだトラックに水を引っ掛けられたり、急な突風で傘を壊されたりしていない。
“まだ”と思ってしまうあたり、自分でも悲しくなってくるところだが。

上条当麻は不幸だ。
運が悪い人間というのは居るかもしれないが、そのレベルではない。
具体的には通り魔にいきなり腹を刺されるくらいには、上条の不幸というものは上限がない。
この不幸というのは科学の最先端を行くこの学園都市でさえも仕組みを解き明かすことができない難物だ。
外からここに来た時は、この不幸を何となしてくれるかもしれないと少しは期待したものだが、今はもはや諦めてしまっていた。

そして、これもその不幸の一つなのだろうか。

ふと視界に入った公園に、一人の少女がうずくまっているのを見つけた。
小学校の高学年くらいだろうか、茶髪のボブに服は黒い病院着のようなものを着ている。
彼女は傘もささず、まるで捨て猫のようにダンボールの箱の中に入っていた。

いや、“まるで捨て猫のよう”ではない。

よく見てみると、そのダンボールの箱に何かの紙が貼ってある。
上条は嫌な予感がして、公園の中に入って少女の前まで歩いて行く。
その紙には、ご丁寧に上からテープを貼って雨に滲まないように、こう書いてあった。


『拾ってください』


353 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/05/18 02:15:33.22 KJFcY/Y1o 3/20



しばらく、ザァァ……という雨音だけが辺りに響く。
上条は何も言うことができない。
雨に打たれて震える捨て猫というのはありそうで中々ない、それでもフィクションの世界ではありきたりな光景だ。
この前友人に借りた漫画にも、いつもは突っ張っている不良がそういった猫を拾う場面があった気がする。

だが、目の前の少女は人間だ。猫ではない。
捨て猫と捨て子では事の大きさが違いすぎる。

置き去り(チャイルドエラー)というものだろうか。
世の中には入学費のみを払って子供を預けた後、行方をくらましてしまう親もいるらしい。
この少女もまたそのような扱いを受けたのだろうか。

上条は首を振る。
それにしたって、この状況はおかしい。
いかに置き去り(チャイルドエラー)だとしても、学園都市に入った時点で何かしらの住居をあてがわれるはずだ。
こんな家無し状態になるなんて事はありえない。

それでは家出だろうか。
上条は頷く。それはありえるかもしれない。
寮長さんへの不満が爆発し寮を脱走、第十三学区からここ第七学区まで逃げてきたはいいが、住む場所がないのでこうして誰かに拾ってもらおうと思った。

とにかく、考えているだけでは始まらない。
こうして目にしてしまったのだ、何かしらの行動を起こす必要がある。
それは彼女のためというより、自分の人間としての質を守りたいがためだ。

「どうした、大丈夫か? 傘も差さずにそうしてると風邪引いちまうぞ。
 ほら、とりあえず警備員(アンチスキル)のとこまで一緒に行こうぜ。早く寮長さんとも仲直りしような」

「…………」

少女は、上条が差し伸べた手に何も反応しない。
まるで彼が見えていないかのように、生気のない目でただぼーっと何もない空間を見つめている。

354 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/05/18 02:16:26.98 KJFcY/Y1o 4/20


どうしたものかと上条が頭を掻いていると、唐突に少女が口を開いた。

「オマエ、目が見えてねェのかよ」

「……え?」

「私は超拾えっつってンだ。警備員(アンチスキル)に突き出せとか頼ンでるわけじゃねェンだよ」

どうやら相当にお怒りな様子である。
とある青髪の友人ならそれでも目の前の少女を愛でたのだろうが、あいにく上条にそんな余裕はない。
というか、率直に言ってかなりカチンときていた。

「お前なぁ……もう小学校の高学年だろ? ちょっとはお姉さんにならないと中学校に入ってから苦労するぞ」

「オマエ、レベルはいくつだよ?」

「ぐっ……いや、それは……」

「あァ、もういい、分かった。オマエ、少し勘違してるようだな。ここじゃ年なんざ超関係ねェンだよ。
 例えば既にレベル3相当の力を持っている小学生と、何の力もねェ中学生。どっちが価値があると思う?」

「このっ、何が能力だ、そんなもん一発芸に過ぎねえだろうが。そんなんで人の価値を決められてたまるか!」

「一発芸? 寒さで苦しんでいる奴は発火能力(パイロキネシス)で助けられる。車にはねられそうな奴は念動力(テレキネシス)で助けられる。
 オマエ達無能力者どもに能力を上回る別の価値があるってのか? 本当に超苦しンでる奴等を助けるだけの力があンのか?」

「…………」

上条は答えられない。
学園都市において能力によるヒエラルキーというものは確かに存在している。
高位能力者は優秀、無能力者は落ちこぼれ。そんなものは小学生でも分かっている。

何かが違うという思いはある。
しかしそれは具体的には出てこなく、心のどこかで引っかかっているようだった。

355 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/05/18 02:17:00.24 KJFcY/Y1o 5/20


上条は溜息をつく。
もうやめにしようと思った。そもそも、自分は偉そうに説教できる人間ではない。
説教というのは本当に相手のことを想っているからこそするべきであり、心のこもっていないものなどただうるさいだけだ。

「警備員(アンチスキル)をここに呼んでおく。動くんじゃねえぞ」

そう言って、上条は歩き去る。
それを聞いて少女が大人しくじっとしているわけはないのに。ここから逃げ出してまた別の場所で雨に打たれるのは分かりきっているのに。

だが、これでいいのだ。別に上条は心の底から少女を助けたかったわけではない。
ただ、何かをやったという事実が欲しかっただけ。これで見て見ぬふりをしていた者達とは違うことを証明できる。
困っている人が居たら手を差し伸べる。それで十分じゃないか。
それ以上に相手のことにズカズカと干渉するのはお節介というものだ。それに、そこまでの義理もあるはずがない。

これが本当の善行ではないことは何となく分かる。しかし改めようとは思わない。
上条は不良を何人も相手にして勝つことなんてできないし、自分のことが一番かわいい。
誰かを助ける上で本当に自分が危ない目に遭いそうだったら、その相手を見捨てるかもしれないとさえ思っている。


詰まるところ、上条はフィクションに出てくるようなヒーローではないのだ。


上条は振り返らない。
雨は変わらず、ただ静かに降り続いていた。


356 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/05/18 02:17:45.75 KJFcY/Y1o 6/20




***



物心つく頃には、少女の周りは血の海だった。
不快だったあの鉄の臭いも今となってはすっかり慣れた。

人が死ぬことは珍しいことではない。
一秒の間にも世界では何万もの命が失われている。
その度に大袈裟なリアクションをとっていては、とても体がもたないだろう。

無関心とは身を守る手段だった。

何年も暮らした無機質な研究所。
周りには同じような身の上の、同じくらいの年齢の子供が何人も居た。
それなりに会話はした。子供らしくたまには一緒に遊んだりもした。

だが、少女はそんな彼らには一本の線を引いていた。
それ以上は踏み入れない、踏み込ませない。そんな明確な線だった。

周りの子供達はすぐに死んでいった。
それは実験の事故だったり、開発中の事故だったり。

ここでは“事故”という言葉の範囲が広い。
例えば理論通りに考えれば数パーセントは生き残る可能性がある実験であれば、それで被検体が死亡したとしてもそれは事故という事になる。
事故ではなく事件となる場合は、百パーセント失敗するような実験を強行した場合であり、そんな頭の悪い事をここの科学者はやらない。

「辛くてもみんなの役に立つために頑張る!」

そう言った女の子は、次の日の耐久試験で鉄球に潰されて死んだ。
彼女の名前は覚えていない。

「強くなってここの奴等に復讐してやる!」

そう言った男の子は、次の日の開発中に内臓がほとんど全部壊れて死んだ。
彼の名前は覚えていない。

357 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/05/18 02:18:24.71 KJFcY/Y1o 7/20


子供達の中には友達の死に泣き叫ぶ子も居た。
もういやだ、と恐怖で震える子はもっと居た。

そういった子供達は大抵、自分だけの現実(パーソナルリアリティ)が崩れた。
その度に直そうと脳を弄られるのだが、それで戻ってきた子を少女は一度も見たことがない。
この辺りが少女が必要以上に周りの子供達に近付かない理由の一つである。
どうせお互いいつ死ぬか分からない。相手の事を悲しめる程度に近づいてしまえば、連鎖的に自分まで命を落とす可能性が出てくる。

幸か不幸か、少女は優秀だった。
能力レベルは順調に伸びていき、レベル3まではすぐに到達した。

問題はその後だった。

壁に当たった。
少女は次のレベル4へとなかなか辿り着けなかった。
科学者は躍起になって、無茶な実験が増えてきた。
それでも自分がまだこうして生きているのは、優秀な個体ゆえに一応死なない程度にという配慮があったのかもしれない。


そんなある日、蒸し暑い六月の雨の日の事だった。


まるで天から救いの手が差し伸べられたかのようなチャンスだった。
数年間で一度もなかったような、これを逃せば二度とないと思えるほどの。

一瞬の隙だった。
それでも少女は、自分でも驚くほど素早く行動に移した。
普段はそんな事を少しも考えていなかったのだが、それでもやはり心の奥底ではそういった想いが眠っていたのかもしれない。


少女は、研究所から脱走した。


走って、走って、走った。
雨の中を、もしかしたら人生で一番必死に。

頭の中ではこれからどうすべきか考えていた。
学園都市の上層部が敵だと考えれば、警備員(アンチスキル)や風紀委員(ジャッジメント)はダメだ。
それならばこの街を出るしかない。そう考えるが、こちらも一筋縄ではいかない。

とにかく、拠点が必要だった。
学園都市を出る算段がつくまで、しばらく追っ手をやり過ごせるような。
廃ビルなんかはダメだと思った。そういった場所はすぐに捜索の手が入る。


だから少女は、誰かに拾ってもらうことにした。


358 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/05/18 02:19:09.94 KJFcY/Y1o 8/20




***



今思えば馬鹿だと思った。
少女は公園で雨に打たれながら溜息をつく。

確かにどこかの学生寮の一室に転がり込むのはいいかもしれない。
それにしたって、ダンボールはなかった。
偶然捨て猫が拾われた後の空箱を見つけたのだが、入ってから数秒で自分の馬鹿さ加減に気がついた。
自分なりに保護欲を引き立たてさせるための手段だったが、これで素直に拾うような者は頭がおかしいと思う。

(クソ……全然頭回ってねェ……)

少女は頭をブンブンと振って雨水をはね飛ばす。
これではまたすぐに捕まってしまうだろう。
脱走を企てた子供への制裁は聞いたことがある。少女は捕まったらその時点で舌を噛みきろうと思った。

これでもう終わりなのだろうか、と少女は頭上の雨空を見上げる。
雨粒が顔に当たり、頬を伝っていく。
重苦しい灰色の雲は空を多い、一片の光も見えない。

何となく、今までの人生を振り返ってみた。
研究所、実験、悲鳴、血、死体。

「くくっ」

思わず笑みさえ溢れる。
人生は苦しんだ分だけ幸せも訪れるなどと聞いたこともあるが、これからどんな事があればチャラになるのか想像もつかない。

なんだかもう、色々と面倒になった少女はただぼーっとする。

死んだらどうなるんだろう、それは今までも数えきれない程考えてきた。
いくら考えても答えが出るわけではないが、それでもろくでもない事くらいは想像できた。
来世ではきっと幸せになれるなどという気持ちにもなれない。例え生まれ変わりというものがあっても、きっと自分の人生はまた同じようなものなのだろう。
それくらいにはこの世界は腐っていると思っている。

359 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/05/18 02:20:12.05 KJFcY/Y1o 9/20


少女が視線を空から前へ戻す。

先程から何人かの視線を感じた。
しかし、その全てが見なかったように通りすぎていく。

(当然、か)

自分から面倒なことに関わろうとする者は少ないだろう。
そして、彼らの判断は正しかったと言える。もしも自分のような人間と関われば、それこそ引きずり込まれる可能性だってある。

世界は優しくない。そんな事は痛いくらい知っているはずなのに。
それが分からなくなるほどに、自分は動転していたのかもしれない。
あるいは――――。

そこまで考えたときだった。


「どうした、大丈夫か?」


ふと、雨音と自分の声以外の音が聞こえてきた。

ツンツン頭の少年。中学生くらいだろうか。
待ちに待った獲物であるはずなのだが、少女の気分は乗らなかった。
一度沈んだ心はなかなか浮き上がってはこない。

加えて、少女の中ではふつふつと妬みや憎しみの感情が湧き上がってきていた。
なぜ自分はこんな事になった。一体何が悪かった。
なぜ目の前の少年を始め、ここにいる大抵の子供達が過ごしている日常が自分には許されないのだろうか。

そんな苛立ちも加わって、少年に投げ掛ける言葉はキツいものになっていた。
予定では猫を被って相手を丸め込める作戦だった。
しかし、こんなその時の感情程度で台無しにしてしまうあたり、自分も所詮は子供かと自嘲する。

相手はそれでもなお自分に手を差し伸べてくれるようなお人好しではなかったらしく、背を向けて歩き去ってしまった。

360 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/05/18 02:21:00.68 KJFcY/Y1o 10/20


別にそのことに対して何かを思うことはない。至って普通の反応だ。
それよりも、自分もそろそろここから動かなければいけない。
あの少年が、ご丁寧にも警備員(アンチスキル)を呼んだと教えてくれたからだ。

少女は雨の中、ゆっくりと立ち上がる。
濡れて貼り付く髪が鬱陶しく、再びブンブンと頭を振って水を飛ばす。
能力は使わない。雨の中で濡れない少女というのは目立つだろう。

そして少女は、先程の少年とは反対方向に歩き出す。
別に意識したわけではない。ただこっちの方が人が多いかと思ったからだ。

その時だった。


「待てよ」


少し前に聞いた声だ。
少女はうんざりした表情で振り返る。

そこには案の定、先程の少年が立っていた。
あれから走って引き返してきたのだろうか、傘は差しているのにかなり濡れているようだ。

少女は大きく舌打ちをして、

「何だよ。私が超大人しく警備員(アンチスキル)を待つとでも思ってたのか?」

「……お前、行くとこねえのか?」

「あったらこンな事してねェっての」

そう言い捨てると、少女はクルリと向きを変えて歩き出してしまう。
どうやら本気で警備員(アンチスキル)に引き渡そうと考えているらしいが、大人しく従うはずがない。
これ以上引き止めるようであれば、能力を使って排除しようと考える。

しかし。
少年の言葉は、予想外のものだった。


「なら、ウチ来いよ」


361 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/05/18 02:21:45.13 KJFcY/Y1o 11/20



少女の足が止まった。
少しの間お互い無言で、周りにはただ雨の音だけが響く。

少女は驚きの表情を貼りつけたまま振り返った。
まるで少年がいきなり全く知らない言語を使ったかのように、その意味が頭の中に入ってこない。

「……何言ってる?」

「だから行くとこねえならウチ来いって言ったんだ。どうも警備員(アンチスキル)にはお世話になりたくねえみてえだし、話くらいは聞いてやる」

「…………」

まだ事態が飲み込めず、呆然とする少女。
相手が何を考えているのか分からない。本当に頭がおかしいんじゃないかとさえ思う。
今の自分のような子供を寮に招き入れてバレたらどうなるか、それくらい誰だってすぐ分かるはずだ。

そんな危険を顧みず自分なんかに手を差し伸べる理由。

一つ思い当たった。
だが、それはとてつもなく不快なもので、少女は思わずぞっとして半歩後ろへ下がった。

「オ、オマエまさかロリコンってやつか!? ふ、ふざけンな!! こンな小学生に手ェ出すなンて超頭おかしいンじゃねェか!?」

「はいはい、俺のタイプは寮の管理人のお姉さんだから安心しろ。ほら、行くぞ」

「あ、おい……」

上条は少女の言い分などろくに聞かず、手を取ってさっさと歩き始めてしまった。
そしてもう一方の手に持っている傘を二人の間まで持ってきて、自然と相合傘の形になる。
少女は、これだけ濡れているのだから今更関係ないと言おうとして、口を止めた。

唐突に繋がれた右手は暖かく、想像以上に大きなものだった。
何度か科学者に手を引かれた経験はあるが、一度も感じられなかったものだ。
何が違うのか、それをハッキリ言うことはできない。ただ、何かが違うというのは分かる。

362 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/05/18 02:22:15.60 KJFcY/Y1o 12/20


その瞬間、何かが心に伝って染み渡った。
得体の知れない、今まで一度も経験したことのないものに胸を鷲掴みにされているようだった。

そんな中で、ぼんやりと思った。
これはきっと人の暖かさというものなんだろう、と。
心の奥底ではずっと欲しがっていた、そして一生感じることができないと思っていたものだ。

人生は最終的にプラスマイナスゼロだなんて思わない。今までのマイナス分を相殺するようなものなんてありえない。
その気持ちは変わらない。
しかし。


これは今までの人生の中で初めてのプラスではないか、そう思うことができた。


すると、隣を歩いている少年がこちらを見て慌て始める。
それはもう、大袈裟すぎるほどに。

「……えっ!? お、おい、どうした!? 何で泣いてんのお前!?」

「はァ!?」

少女が頬に手を当ててみると、なんと確かに涙が伝っているようだった。

小学生の女の子を泣かしたとあれば、中学生男子は慌てまくるだろう。上条のリアクションは当然のものだといえる。
だが、少女にとって重要なのはそこではない。自分が泣いているという事実そのものだ。
これは彼女にとってとても気に食わない事であった。

まぁ、要するに恥ずかしいのだが。

「バッ、ち、ちっげーし!! 髪についてた水滴が超伝ってきただけだし!!」

「いやでもお前目が赤い……」

「うるせェ!!! こっち見ンなクソが!!!」

「いでっ!!! おい、いでっ!! いてえっての!!!」

少女は顔を真っ赤にして、上条の足を蹴りまくる。
そんな二人を見て、周りは「仲の良い兄妹だなぁ」といった感じで微笑ましげに見ていた。

依然として雨は降り続き、不快な蒸し暑さが身を包む。
加えて服もグショグショ、頭もグショグショで、そのまま川に飛び込んだかのような有様の少女。
そんな最悪な状況の中で、繋がれた二人の手。


少しだけ、雨が弱くなった。
少女は何となくそう思った。


363 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/05/18 02:22:49.51 KJFcY/Y1o 13/20




***



どうしてこうなった。

上条当麻は自問する。
隣にはずぶ濡れの小学生の女の子。行き先は我が学生寮。

普通に考えてありえない。
いくら何でもそこまでしてやる義理があるはずもなく、警備員(アンチスキル)に任せるのが最も良いはずだ。

途中までは確かにそう考えたはずだ。
自分は一人で学生寮への道を歩いていたはずだ。
それなのに。

その途中で、足が止まったのはなぜだろうか。
言い表せないモヤモヤが体を支配して、気付けばその足は元来た道を引き返していた。
やめろ、やめておけ、と心の中で警報を発しているにも関わらず、その足は止まらなかった。

「なら、ウチ来いよ」

言ってしまった、と思った時はもう遅かった。
その後は電車のレールのように、決められた道をただひたすら進むしかない。

こうして、結局上条は小学生の女の子を自分の寮へと招き入れるはめになってしまったのだった。

しかも歩いている途中で急に泣き出すわで、精神的に大変よろしくない。
こんな所をクラスメイトに、具体的には青髪のアイツなんかに見られるような事になれば、上条は色々と終わってしまう。
もうこれは、いつものアレだと割り切るしかなかった。

そうこうしている内に、寮まで着く二人。
ここの管理人は職務怠慢な人なので、そこまで警戒する必要はない。
むしろ、真に警戒すべきは他の部屋の学生であった。

364 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/05/18 02:23:24.99 KJFcY/Y1o 14/20


コソコソと、周りに注意して進む二人。
少女の方もどこか慣れている様子であり、学校でも悪ガキでいつも何かやらかしているのではないかと想像する。

そうやって部屋の前まで辿り着くと、上条は素早く鍵を開けて少女を中に押し込んだ。
その後、周りをキョロキョロ確認しながら、上条自身も部屋の中へと入る。

少女は、部屋にあがらずぼーっとただ中を眺めている様子だった。

「どうした、あがれよ。あっ、やっぱ待て!!」

上条は慌てて制止すると、バタバタと部屋の中へと入っていく。
そして洗面所から大きなバスタオルを取り出すと、少女に投げてよこした。

「とりあえずこいつであらかた拭いてから入って来い。何なら俺がグシャーって拭いてやってもいいけど」

「それやったら超大声出すぞ」

そう言いながら、大人しくタオルで水滴を拭っていく少女。
不覚にも、少し微笑ましいと思ってしまった上条は、頭をブンブンと振る。
油断してはいけない。目の前の少女はとてつもなく生意気でこっちを年上だとか微塵にも思っていない奴だ。

大体拭き終えた少女が部屋にあがってくる。
ペタペタと可愛らしい足音を鳴らしながら――――。

「……待て、ペタペタ?」

「あン?」

365 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/05/18 02:23:57.28 KJFcY/Y1o 15/20


上条が恐る恐る視線を下に向ける。
少女は、裸足だった。
そして色々あって気付かなかったのだが、それは公園からずっと、という事のようだ。

つまり。

「お前……足も拭いた?」

「…………」

「おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」

案の定、玄関からリビングへと繋がる廊下は泥の足型が綺麗についていた。
それを目撃した上条は、目を血走らせて猛然と少女に走り寄り、彼女をお姫様抱っこした。

その瞬間、少女は顔を真っ赤にして、

「なっ、や、やめっ……!!!」

「うるせえええええええ!!! これ以上部屋を泥まみれにするのは俺が許さん!!!」

上条はそう叫ぶと、すぐに少女を洗面所の奥にある風呂まで運んでいき、そこにぶち込んだ。
そしてビシッと指差して、

「そこで足洗え! いやついでにシャワーでも浴びてろ!! 服は洗濯機の中!! 乾燥機能使ってシャワーから出たらそのまま着ろ!! 以上!!!」

そう言って、ピシャリと洗面所への扉を締める。
そしてまずは雑巾だな、と床の泥を見て苦々しげな表情を浮かべる。

366 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/05/18 02:24:35.67 KJFcY/Y1o 16/20


と、そこで洗面所の中から声をかけられた。

「なァ、オマエ上条って言うンだよな?」

「はぁ? あー、表札か。おう、上条当麻な。上条さん、もしくは上条様って呼べ。で、お前は?」

「絹旗最愛。よろしくな、上条」

「あぁ、よろしくな最愛ちゃん」

「ッ!! オマエその呼び方やめろ!!」

「年上を平気で呼び捨てにする奴に言われたくねえ!」

そう返すと、上条はさっさと掃除に向かおうとする。
すると、扉の向こうの少女……絹旗が慌てた様子で、

「あっ、えっと!」

「……なんだよ。洗濯機の使い方が分かんねえとか?」

「…………」

「おーい、どうした?」


「その、ありがと」



367 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/05/18 02:25:24.38 KJFcY/Y1o 17/20



彼女がポツリとそう言った次の瞬間には、バタンと中で風呂場の扉が閉まる音が聞こえた。
まるで返事は聞きたくないかのように。

上条は少しの間ポカンとしていた。
しかしすぐに口元に笑みを浮かべると、今度こそ掃除に取り掛かることにする。
その足取りは軽かった。

なぜ、彼女を部屋にあげたのか。
なぜ、彼女を警備員(アンチスキル)に任せなかったのか。

それはまだよく分からない。
それでも。

これは間違ったことではない。
根拠なんかは全くないが、何となくにそう思うことができた。


部屋の外では、雨が若干弱くなったような気がした。

368 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/05/18 02:27:34.95 KJFcY/Y1o 18/20

おわり。ごめん、数レスじゃなかった、もっと詰め込めばよかった

373 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage] - 2013/05/18 02:55:38.63 KJFcY/Y1o 19/20

あー、ごめん補足忘れてたわ
昔の最愛ちゃんはちょっと尖ってて、それが丸くなって防護性を獲得したっていう話にしたかった
つっても全部書いたら結構な量になりそうだったから、とりあえず冒頭だけ吐き出した感じ

382 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage] - 2013/05/18 22:47:48.55 KJFcY/Y1o 20/20

予想以上にスレ立て求めてくれるレスがあって嬉しいわ。ありがとう

でも今は長編SS書いてて、その後書くものも決まっててそれもかなりの長編になる予定だから、スレ立てるならその後っていう事になると思う
短く見積もっても一年後で、それまで溜め込んでおくのもキツかったから、ここを借りてちょっと投下してみたって感じ