875 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/08/14 00:19:00.68 GPUjLm5AO 1/12喫茶『かたみち』のラストを思いついたので投下に来ました
※佐天通行その他カップリング的な要素あり
【関連】
口は悪いが根は優しい店主が経営する小さな喫茶店『かたみち』
http://toaruss.blog.jp/archives/1045373816.html
口は悪いが根は優しい店主が経営する小さな喫茶店『かたみち』2
http://toaruss.blog.jp/archives/1045448036.html
第七学区の北西端にある、口は悪いが根は優しい店主が経営する、小さな喫茶店。
昼時の賑わう店内を、商品を載せたトレイを持つ、白い青年が闊歩する。
「お待たせいたしました。こちら、フレンチトーストセットでございます」
「ありがとうございます」
「ごゆっくりどうぞ」
青年は一礼し、他の客への対応にあたる。
「ふう。今日も余裕で捌ききったわね」
二時過ぎ。
店の奥の厨房から出てきた女性が、ふわりとした髪をかき上げながら一人ごちる。
「お疲れさン」
「存外、この人数でも上手く立ち回れるものなのですね」
「店自体も大して広くねェし、客もそこまで多くねェからな」
自嘲気味に店舗を評価する店主。
そう謙遜しなくても、と青年が言えば、ぶっちゃけそうだよね、と女性が肯く。
「私としてはちょっとしたヘルプのつもりだった筈なのに、思いの外楽しくなってきちゃった。このままここに永久就職しようかしら」
「悪くねェンじゃねェの? 料理担当の店員のままでいいならな」
「そんなの当たり前でしょ。だって、あんたの懐に永久就職するのは--」
女性の言葉を遮るようにカウベルが鳴り、佐天涙子が入ってくる。
「こんにちはー! っておお! 麦野さんに垣根さん! 久しぶりですね!」
「お久しぶりです、佐天さん。壮健なようで何よりです」
「相変わらず元気ねえ、佐天は」
青年・垣根帝督は丁寧に挨拶を返し、女性・麦野沈利は半ば呆れたように微笑む。
「いやー、二人が帰っちゃう前に来られるなんて、今日はやっぱりラッキーデイだなー!」
「ふむ。ここに来る前にも、何かいい事があったのですか?」
「星座占いランキングで一位だった、とかそんな感じでしょ」
「交差点で百円拾ったとかじゃねェの」
佐天の一言に対し、それぞれが“らしい”反応を見せる。
そんな彼等に指を振り、
「んっふふ~♪ 実はですね~♪ じゃーん!」
佐天は心底嬉しそうに、ポーチから二枚の映画チケットを取り出す。
「当たったんですよ! 先行上映会!」
「それってこの夏公開の話題作じゃない! うっわ、いいなあ、私も応募しとけばよかったー!」
年甲斐もなく地団駄を踏む麦野に、
「絹旗さんが珍しく応募していた気がしますが」
と言及する垣根。
「マジ!? 確かめてみる!」
携帯を取り出し、同居人に電話を掛け始める麦野。
「では、私はお先に失礼します」
「お疲れ様でーす!」
麦野の様子を見ながら、垣根は一礼して店を後にする。
「さてさて。いつものをお願いしますね、マスター」
「オウ」
いつもの席に着いた佐天は、いつも通りに注文し、麦野に目を向ける。
「ああ絹旗? あんたさ、例の映画の先行上映会って応募した? ……おお! よっしゃでかした! ……ハアッ!? なんであいつらにあげちゃうのよ!?」
「最初からそのつもりだったあ? ふっざけんなよ! あいつらは公開されてから観に行きゃいいじゃねえかどうせ何度も観に行くんだし! 私は可及的速やかに観たいの!」
「……男女ペアじゃないと駄目? なら垣根と行くから私によこせ。いいわね? …… い い わ ね ? ……ありがと。愛してるよ、絹旗。……キモイ言うな。じゃあ、後でね」
通話を終えて携帯をしまうと、上機嫌に鼻を鳴らしながら店の入口に向かう麦野。
「お疲れ様、麦野さん。先行上映会で会いましょう!」
「おーう、まったにゃーん☆」
必死過ぎだろ、と店主は誰にも聞こえないように呟いた。
「ねえ、マスター」
「あン?」
一杯目のマンデリンを飲み終えた佐天は、店主を見据えて話し掛ける。
彼女と視線を合わせ、店主は次の言葉を待つ。
「この上映会の日って、暇ですか?」
「ン……まァ、丁度定休日だから空いてるが」
佐天の思惑を知ってか知らずか、質問された事にだけ答える店主。
「じゃあ、一緒に観に行きませんか?」
期待の眼差しを店主に向けて問い掛ける佐天。
店主はそれに対し、何故自分なのか? と言いたげに質問を返す。
「オマエぐらいイイ女なら、誘いに乗る男なンざいくらでもいンだろ?」
その返事を聞き、不満全開の顔で反論する佐天。
「そんな人いませんよ! もう、デリカシーないんだから!」
ぷい、とそっぽを向いた佐天を、店主は慌てて宥めようとする。
「わ、悪かった、悪かったよ。ほら、二杯目はタダにしとくからよ、とりあえず機嫌直してくれ」
「ふーんだ。コーヒー一杯でなびくような軽い女じゃないですよーだ」
完全に拗ねてしまった佐天に、どうしていいか判らずうろたえる店主。
そこに、
「こんにちは~」
飴玉を転がすような甘ったるい声が、カウベルの音と共に入店する。
「あ、あれ? なんだか不穏な空気……?」
声の主は、困り果てた顔の店主と膨れ面の佐天を交互に見やり、そう漏らした。
「あ、お、おォ。いらっしゃいませ、ご注文は」
来客に気付き、慌て気味に接客する店主。
「えっと、キャラメルマキアートってありますか?」
「あ、は、はい。少々、お、お待ちを」
この店主は、佐天の様子が気になって仕事どころではない。
そう察した女性は、
「あ、そんなに急がないので、本当にゆっくりで構いませんよ」
と言って彼を気遣う。
すると、
「こんなのに気を使わなくていいよ、初春」
佐天は彼女・初春飾利に、自分が不機嫌な理由を遠回しに告げる。
「佐天さん。気持ちは分かりますけど、こんなのなんて言ったらマスターに失礼ですよ?」
流石にいただけないと感じた初春は、佐天の言動を諌める。
「なに、初春ってばマスターの肩持つの? 親友のあたしを差し置いて、こんな唐変木に味方すんの!?」
「そうじゃなくて。どんなに腹が立っていても、一定の礼儀は必要ですよ。それで、一体なんでこんな事になったんですか?」
初春は溜め息を吐き、佐天が不機嫌になった経緯の説明を求める。
「せっかく先行上映会に誘ったのにさ。マスターってば、他の男と行けばいいだろーなんて言うからさ。なんか……なんか悔しいじゃない」
「だからって、流石にその態度は大人気ないですよ?」
「だーってえ!」
「はいはい、気持ちは充分に分かりましたから。まずは悪く言った事を謝りましょうね?」
「う~……」
初春の言い分は正論だが、それでもなお納得いかないといった表情で、佐天は店主に向き直って謝罪を
「済まなかった」
「ふぇっ!?」
しようとした途端に、先に店主に謝られてしまう。
「ちょ、なんで、マスターが謝るんですか!? あたしがつまんない事で怒っただけなのに」
「いや。オマエの言うとおり、さっきのは流石にデリカシーに欠けてた。怒って当然だ」
もう一度謝罪し、頭を下げる店主。
「えっ、も、もう、いいですよ、頭上げて下さいよ! あたしのワガママが過ぎただけですから、マスターは全然悪くないですから!」
今度は逆に佐天が慌てふためき、必死に店主の非を否定する。
「そンでよ、その……詫びって訳じゃねェが。オマエさえよければ、その、先行上映会、だったか。俺が相手でも、問題ねェか?」
店主の提案に目を丸くする佐天。
しばらくの沈黙の後、彼女は静かに首を縦に振った。
「……ふゥ。断られたらどうしようかと思ったわ」
「……こ、断る訳、ないじゃないですか。そもそも、あたしが先に誘ったんだし」
安堵の息を漏らす店主に、いじいじと指をくねらせながら言葉を吐く佐天。
「あー、ちと、暑いな。冷房入れてくるわ」
そう言って店の奥に引っ込む店主。
一方の佐天は、
「あ、あたし、お手洗いに、行ってきますね」
そそくさとトイレに逃げ込む。
「……まったくもう。二人共素直じゃないですよね、垣根さん?」
一人残された初春は、そこにいる筈のない人物に話し掛ける。
『おや、お気付きでしたか』
その一言に、いつの間にやらカウンターに置かれていた、白いカブトムシのオブジェが反応する。
「風紀委員ですから」
『お見逸れしました』
垣根帝督、正確にはそのスレイブに当たるそれが、彼の代弁者となって語る。
『あの二人の関係も、これを機に一歩、せめて半歩でも前進すればよいのですが』
「まあ、私達が心配しなくても上手くいくでしょう。何しろ、あの二人の行く先は」
「『一方通行』」
「なんですから」
『そうですよね』
第七学区の北西端にある、小さな喫茶店。
喫茶『かたみち』、またのご来店を、心よりお待ちしています。
886 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2013/08/14 00:40:32.90 GPUjLm5AO 12/12これ以上は話が思いつかないのでこれにてお開きなり
お楽しみいただけたならこれ幸い
では、お元気で