581 : とある幻想の一撃必殺[saga] - 2014/08/01 22:12:04.10 yomvIdKJo 1/8

ふと思いついた小ネタスレに投稿すべきか、それとも禁書スレに投稿すべきか、迷った挙句に内容は禁書なのでこちらに投稿させていただきたいと思います。

内容は禁書×ワンパンマンのクロスオーバーです。
つってもワンパンマンキャラが出てくる訳ではなく、上条さんの魔改造(ワンパンマンっぽい)です。
文字数は8000字くらいなので、多分8レスか9レスくらい頂きたいと思います。


とある幻想の一撃必殺

 少年は不幸だった。
 持ち物をなくすのは当たり前で、財布を落とすのも日常茶飯事。足元に気をつけなければ犬の糞を踏みつけて、足元に気を取られていたら電柱にぶつかる。
 こうした不幸は飽くまでも身に降りかかるだけだが、時として周りを巻き込んだ不幸も多々あった。例えば、居眠り運転によって蛇行運転していた車が少年に突撃したり。例えば、包丁を持った通り魔が少年に襲い掛かったり。その度に少年は傷つき、周りを巻き込んでしまった。

 そんな少年を周りが排斥するのも無理からぬ話で、時には暴力沙汰にも発展したものだった。

 少年は理解した。己は不幸な星の下に生まれて来たのだと。
 同時に決意した。この身に降りかかるあらゆる不幸は周りを巻き込む事無く、己が力で跳ね除けて見せると。
 |正義の味方《ヒーロー》になるのだと、少年はその時に誓った。

 その為に少年が選んだのは、己が肉体を鍛える事だ。通り魔を返り討ちに出来るくらいに、迫り来る車を回避出来るくらいに、自身の身体能力を向上させる事に対して否やはなかった。
 雨の日も、風の日も、雪の日も、熱を出そうとも、腹を下そうとも、血反吐を吐こうとも、少年は自身に課したトレーニングを止めることはなかった。



 そしてある時、気がつけば少年はウニ頭になっていた。

元スレ
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-40冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379543420/
582 : とある幻想の一撃必殺[saga] - 2014/08/01 22:12:57.42 yomvIdKJo 2/8

 学園都市は日本でもトップクラスの技術を持った学生の街である。“記憶術”だとか“暗記術”だとか、そんな名目で超能力の研究を行っており、同時に脳の開発を行っている都市として有名となっている。何故有名なのかというと、設備の潤沢さや二十三の学区内には計二百三十万人の人口のうち八割が学生であるとか、理由は多くあるものの、最も大きな理由としてはやはり超能力にあるだろう。
 誰しもが一度は夢想した事があるだろう。掌から炎を出したり、物を思うように動かしたり、風を操ったり。そんな妄想が実現出来るような脳の開発が学問の一環として執り行われるのだから、否が応でも有名になるというものだ。
 そして、学生が全体の人口の八割を占めている事や、学生を中心にした教育機関の数々こそが、この街が学園都市と呼ばれている所以である。
 そんな学園都市であるが、授業のカリキュラムや学業の難易度は学校のレベル次第で大きく変動するものの、長期休暇は何処の学校も変わらず当たり前に用意されている。
 七月下旬から八月下旬にかけての一ヶ月と少々の期間は夏休みだし、冬にも冬休みはあるし、学年末の試験を乗り越えれば春休みとなる。

 そして七月十九日の今日は、学園都市全体で終業式を迎えていた。

 ある者はバイトに勤しむ事だろう。ある者は全力で遊ぶだろう。ある者は計画的に課題を終わらせているだろう。夏休みと言う長期休暇は、学生たちに多くの選択肢を提示していた。どの選択肢を選ぶのかは、その学生次第である。

 そして、学園都市の学生である少女は終業式も終わり、友人達と期末試験を乗り越えた名目で一頻り遊び終えた夕方に、路地裏を駆けていた。ポリバケツを飛び越え、ブロック塀をよじ登り、古ぼけて穴の空いている金網をすり抜けて、少女は逃げ回っていた。
 何度か背後を振り返ったが、追り来る不良達は嗜虐に満ちた笑みを浮かべており、何とか大通りに出なければと少女は闇雲になって走り続けた。

 どうしてこうなったのか。その解は塾に遅れそうだったから。彼女は軽い気持ちで路地裏をショートカットに使おうとしたのだ。

 しかし、それが失敗だった。路地裏に屯していた不良達に声を掛けられ、あれよあれよと連れて行かれそうになったので、何とか隙を突いて逃げ出した。だが、不良達は存外にしつこく、同時に自身の体力も限界に近づいていた。
 追っ手は六人。レベル0の自身では不良が一人居た時点で間違いなく勝てないだろう。だからこそ、少女は必死になって逃げ続けていた。
「キャッ!?」
 そして遂に限界が来たのか、少女は足をもつれさせて転んでしまう。なんとか立ち上がろうとするも、膝からはだらりと血が流れ落ち、何故だか知らないが瞳から涙が溢れてきていた。
「よー、もう鬼ごっこはおしまいかい?」
 不良の一人が悪役そのものの口調で少女に声を掛けると、少女はビクリと肩を揺らした。尻もちをついたまま、背後へと逃げとするが、座ったままで逃げられる筈もない。
 少女は自分が腰を抜かしていたと言う事に今更気がついた。

583 : とある幻想の一撃必殺[saga] - 2014/08/01 22:13:46.60 yomvIdKJo 3/8

「おい、俺からヤらせろよ。最近溜まってんだよ」
「ざけんなよ、最初に見つけたのは俺だろうが。てめーはケツの穴でもほじってろ」
「じゃあ俺口もーらい」
「お前またかよ。口なんか下手糞が咥えても気持ちよくねーべ?」
「バッカお前その下手糞さが余計に興奮するんだろうが」
 下品な話題で盛り上がり、不良達はげらげらと大声を上げて笑った。このように入り組んだ路地では“警備員《アンチスキル》”や“風紀委員《ジャッジメント》”の目は届きづらい。
 それを分かっているからこそ、不良達はここまで大騒ぎ出来るのだ。その事実を察したからこそ、少女は諦めたように涙を流している。
「まあ心配すんなよ、無駄な抵抗をしなきゃあこっちだって優しくシてやるからよ」
 そう言って不良達が少女の制服を脱がそうと、彼女の肩に手を掛けた瞬間、宙から何かが降ってきた。
「うお!?」
 それは卵だった。十個五十円の特売品らしく、そんなラベルがパックには貼り付けてある。しかし、どの高さから落ちたのか卵の殻は割れるどころか粉々に砕けており、その中身が飛び出して不良の一人が卵塗れになる有様であった。
「誰だ!?」
 卵を浴びた不良が怒りに身を任せて叫び声を上げる。建物に囲まれたこの路地裏で、まさか卵をパックごとぶつけられるとは思ってもいなかった。
 不良の声に反応したかのように、その下手人が五階もある建物の屋上から飛び降りてきた。
 服装はどこにでもあるような半袖のカッターシャツとスラックスだ。買い物帰りなのか、両手には買い物袋が握られ、生活感あふれる姿とツンツンとした髪型が特徴的な、極々ありふれた高校生の姿をしている。
 しかし、不良達は警戒心を最大限に引き上げた。それも当然だろう。五階から飛び降りておいて平然としているなど、“能力者”でなければありえないのだから。
「……誰だ、テメェは!」
「俺か? 俺は……」
 突如現れたツンツン頭に対して、不良の一人が声を張り上げて威嚇するように問い質した。
「趣味でヒーローをやってる者です、はい」
「……ふざけてんのかコラァ!!!」
 何処の世界にこれ程までに所帯染みたヒーローがいるのだと、不良達は目の前のふざけた存在に怒りを露にする。お楽しみを邪魔され、訳の分からない名乗りを上げられてキレない不良はそうそう居ないだろう。
「ふざけやがってええええええ!!!」 
 不良の一人が殴りかかった。さっさと伸して続きを始めたい。そんな性欲に塗れた怒りの感情をツンツン頭の少年にぶつける為に。対する少年は、手馴れた手つきで買い物袋を左手のみに持ち替えた。
「うごっ!?」
 少年の右手が殴りかかった不良に直撃する。少年は不良に対してアッパーカット気味にカウンターを決めたのだ。それだけなら不良同士の喧嘩でも良くあるので驚く事はない。

 そうして、殴られた不良はそのまま星になった。

584 : とある幻想の一撃必殺[saga] - 2014/08/01 22:14:13.38 yomvIdKJo 4/8

 まるで意味が分からないかもしれないが、そうとしか表現出来ない。殴られてたたらを踏む、どころの話ではない。そのまま宙高くに吹き飛んでいった。そのありえない光景に呆然とする不良達だったが、それを為した少年は決して手を緩めない。無慈悲な少年の右腕は、次々と不良の顔面を捉えていった。

「うげっ!?」
「ごっ!?」
「あばっ!?」
「あべし!!」

 短い断末魔と同時に、少年はあっという間に四人の不良を追加で星にした。その光景には巻き込まれていた少女も愕然とする。大人と子供、等と言う比喩では足りないほどに不良と少年の力量には大きな隔たりがある事を目に見えて理解させられたからだ。
「な、何だよテメェ……何なんだよォォォオォォオオオォ!!!」
 残された最後の不良が、愉悦に満ちていた筈の表情を恐怖に歪ませて、両の掌から炎の塊を噴出させた。威力としては“レベル3”に判定される程度の|火炎放射《パイロキネシス》だ。
 レベル3とはいえ、人の顔面程度の大きさに燃え盛る炎の塊は、間違いなく少年を殺傷出来る力を有していた。
「逃げてください!」
 少女は叫んだ。自身を守る為に見知らぬ他人を犠牲にするなど出来るはずもない。そんな善性を有した少女だった。
 しかし、裏を返せばそんな心優しい少女を、不良達はその心までも犯そうとしていたのだ。

「テメェがその力で何でも思い通りに出来ると思ってるのなら……」

 少年は迫る炎に対して逃げる素振りも見せずに右手を振り被った。

「まずは、そのふざけた幻想をぶち殺す!!」

 振りかざした右腕が炎を捉えると、炎は一瞬にして消え去った。科学的に打ち消されたのではない。初めからそこになかったかのように消滅したのだ。
「は……? ぶはあっ!!?」
 これにはさしもの不良も目が点になったが、そんな思考を置き去りにして、その不良も同じく星になった。
「ああ、ショートカットに建物の屋上を走ってたのは良いけど、まさか卵を落としちまうとはなぁ……不幸だ……」
「あ、あの……」
「何だ? まだ居たのか」
 アンタこそ逃げれば良かったのに、と少年はからからと笑う。
「助けていただいてありがとうございます……もしよろしければ、お名前を教えていただけませんか?」
 少女はおずおずとした様子で尋ねた。塾の事など既に頭にはなく、助けてもらったお礼をどうしようかとすら考えていた。
「さっきも言ったけどさ、俺は趣味でヒーローをやってるんだ。だからお礼なんていらねーよ」
 見返りを求めてやってるわけじゃねーんだ、と言い残して少年は踵を返す。少女はそんな少年の背中を呆然と見つめていた。

585 : とある幻想の一撃必殺[saga] - 2014/08/01 22:16:22.35 yomvIdKJo 5/8

「あっちいいいいいい!!!!」

 七月二十日。夏休み初日を迎えた今日、ツンツン頭の少年は茹だる暑さに言いようのない怒りに包まれていた。エアコンも、扇風機も、それどこか冷蔵庫も! ありとあらゆる電化製品が駄目になっていた。
 その原因は間違いなく前日の夜にあった雷が原因だろう。その心当たりがあるだけに、少年は怒髪天をつく勢いで憤慨していた。主にだらしのない電化製品達に対して。
 エアコンや扇風機が駄目になったのは百歩譲って許すとして、冷蔵庫が駄目になったのは許せなかった。
 温いお茶に、酸っぱい臭いを放つ野菜達。昨日買ったなま物は軒並み全滅していた。

 残った食べられるものは非常食用に残していたカップめんやカップ焼きそばのみで、仕方がないのでいずれかを食べようとお湯を沸かそうとするも、IHヒーターもお陀仏していた。許すまじオール電化。

 そんなこんなで外食しようと財布を捜しているうちにキャッシュカードを踏み砕き、再発行には一週間。しょんぼりしながら暑さに耐えるべく二度寝しようと布団に入れば携帯電話が鳴り響き、「上条ちゃんは馬鹿だから補習です♪」と担任教師からのラブコールに辟易しながら布団から這い出たのだった。

 上条当麻は生まれつき不幸である。
 しかし、今となってはあまり気にしていない。

「はー。補習、補習か……仕方ねえ、布団干したら行くかなあ。っと、その前にコンビニでも行って飯買ってからにしよう」
 補習と一言に言っても、ここ“学園都市”で行われる能力開発は通常の授業とは異なる部分が多々ある。“能力開発”の為に錠剤《メトセリン》や粉薬《エルブラーゼ》等を使用するのは当たり前で、そうした薬品投与がある以上空腹で学校に向かうのは聊か拙いだろう。
 一先ず手持ちの金で暫く乗り切ろうと財布を開くと、お札はなく、小銭は632円。

「……まあ、これだけあれば昼飯は食えるよな」

 カップめんもこんな時の為にたくさん用意していた訳で、一週間程度ならどうにでもなるだろう。そんな持ち前のポジティブシンキングで夏休み開始早々の不幸と先行きの暗さを振り切った。
 気合を入れようと、両手で頬を張る。財布をもったままで。ちゃんと閉じていなかった財布の小銭入れから小銭が舞い散った。
 空回りした気合のぶつけどころを失ったままいそいそと小銭を拾うと共に、布団を畳んで窓から見える青空を仰ぐ。照り付ける太陽がまぶしい。
「お空はこんなに青いのに、お先は真っ暗♪」
 そんな太陽に負けぬよう努めて明るく振舞ってみても、目下の問題が多すぎて鬱になる。こんな事なら昨日のうちに素直に買って来た食材で晩飯を作ればよかったと、流石の上条も後悔を露にしていた。

586 : とある幻想の一撃必殺[saga] - 2014/08/01 22:17:37.83 yomvIdKJo 6/8

 何故あの時に意味もなくファミレスに行こう等と言うトチ狂った発想になったのだろう。
 何故意味もなくテンションをあげ、訳の分からないエスカルゴの激辛ラザニアなど注文してしまったのだろう。
 何故あの時、絡まれている女子生徒から絡んでいる不良を守ろう等と思ってしまったのだろう。

 素直に家に居れば、真夏の夜の逃走劇の果てに雷を落とされて辺り一帯が停電する事などなかっただろうに。

「つか、夕立とか降ったりしねーだろうな……」
 そこはかとなく嫌な予感を過ぎらせながら、器用にも布団を両手に窓を片足で開け放つと、既に白い何かが引っ掛けられているのを上条は視界に入れた。

「……シスターさん?」

 ベランダの手すりにぐったりとした白い物体。それは白い修道服を身に纏ったシスターだった。妹ではなく、修道女的な意味での。
 だらりとだらしなく垂れた上半身と、同じくだらりと垂れた長い銀髪から見え隠れする西洋系の幼い顔立ちは、将来を約束された美少女っぷりで、上条は思わずその場に掛け布団をだらりとずり落とした。
「……お」
 するとその音に気がついたのか、或いは何かを察したのか。謎のシスターは鼻腔をふんふんと動かしてのそりと首を持ち上げて、長い銀髪に隠れ気味だったその顔を露にした。
 日常からあまりにもかけ離れた一コマ。その第一声は一体何なのか。上条は固唾を呑んで少女の言葉を待った。
「おなかへった」
「はい?」
「おなかへった」
「……はい?」
「おなかへったって言ってるんだよ?」
 第一声はあまりにも気の抜けた台詞だった。その一言に思考を一気に持っていかれた上条に対して、少女は無視されたと感じたのか僅かにムッとした表情を浮かべて再三口を開いた。
「まさかとは思うけど、まさかこの状況で行き倒れ等と言う突発的もしくは偶発的事故を主張する心算でせうか?」
「倒れ死にとも言うね」
 西洋風な出で立ちをした少女から発せられたのはまさかの日本語。それもぺらっぺらな日本語である。どんな言語で語りかけられるのか、内心では戦々恐々としていた上条は若干安心していた。
 少年は困っている人は見過ごさないようにしようと、幼少期の頃から心がけてきている。
「わりーけど、部屋の中にゃ他人様に出せる飯はねぇんだ。コンビニ飯でよけりゃ着いて来いよ」
「ホント!?」
 その言葉に少女は目を輝かせ、そしていそいそとベランダへと乗り込んだ。
 それと入れ替わるように、少年は布団を手すりにひっかけて布団バサミで固定して、学校へ行く準備を始めるのであった。

587 : とある幻想の一撃必殺[saga] - 2014/08/01 22:18:44.82 yomvIdKJo 7/8

「追われてた? 誰にだよ?」
「うん。本当は別のマンションに飛び移ろうとしたんだけどね、後ろから撃たれちゃって。それで君のベランダに引っかかってたんだ」
 学生鞄片手にのろのろと歩く上条の後ろを、インデックスと名乗った少女はとてとてと着いて来ていた。
 飯に釣られてホイホイと着いてくる辺り、ちょろそうなのに良く逃げられたな、などと上条は詮無き事を考える。
「まあ、アンタが自殺志願者じゃないってのは分かった。ていうか、逃げるんだったらこんなとこで呑気してて良いのか?」
「えっと、少し罠を張ってるから、暫くの間は大丈夫かも。三十分くらいだけど」
「そうか、そりゃ大変だな。それで、七階にある俺んちに引っかかっちまう位、執拗に追い掛け回したのは一体何処の誰なんだ?」
 上条の問いに対して、インデックスはどこか答えにくそうにくぐもった表情を浮かべると、意を決めたように口を開いた。

「魔術結社」

 ここは科学の街だ。あらゆるオカルトはオカルトのままにせず、解明するまで研究し尽くす。それでも取りこぼした一部のオカルトを、科学の徒は一体どう思うだろうか。
 或いはここで気味悪がられて突き放されても悪くはない。インデックスはそう思っていた。

「へー、魔術結社。あれか、魔術師って奴か。アンタは魔術ってのは使えるのか?」
「え……? えっと、私は魔力がないから出来ないかも」

 しかし、少年は何でもないように歩き続けていた。
 世間話のような気軽な話でもないのに、上条からは動揺の“ど”の字も見られない。
「じゃあさ、俺も魔術を使えたりする?」
「この街で開発を受けたら、使えないかも。だって魔術は才能のない人達が、それでも異能を求めて探求した結果だから……」
 超能力は“自分だけの現実”を駆使して場を歪める力で、魔術はある理に沿って場を整える事で境界を歪める力である。その二つは結果として異能を放っているという点では違いがないかもしれないが、決定的な違いに才能の有無がある。
 前者は何の準備もなしに、“思う事”と“考える事”の二つだけで異能を放っているのに対して、魔術は厳密な準備と時には何か犠牲を被らなければ異能を放つ事が出来ない。
 そしてその二つは相反する力である。その為、超能力者としての開発を受けてしまっては最後、魔術を扱おうとすれば拒絶反応を起こし、最悪の場合は死に至るのである。

「へえー。じゃあ、俺には魔力はあるけどそれを扱う手段はないってことか」
「そういうことかも。私みたいに魔力を精製出来ない体質っていう可能性もあるけど、開発を受けたならどちらでも意味はないかな」

 そんな説明をインデックスから一頻り受けた所で、上条は少しだけガッカリした様子だが、本心では気にしていないのだろう。
「ほら、コンビニついたぞ。好きなもん選んで良いぞ。600円以内だけどな」
「ホント!?」
 コンビニに入ると、女の店員がギョッとした目で二人を見た。シスターと言う服装があまりにも場違いだったからだろう。二人は気にせずに弁当コーナーへと向かった。しかし、上条の言う通り600円しか財布にはない。
「うう、どれも食べたくて選べないかも……」
「すまないねえ、俺が貧乏なばっかりに……」
 眉尻を下げて憂うシスターと、よよよと泣いた振りをする上条。
「ううん、こんな異国の地でここまで親切にしてくれたのは貴方が始めてだから……とーまが好きな弁当を選んで良いよ」
「そうか……じゃあ、このソーメンを二つ買おう。これならギリ足りるし、二人で食べられるからな」
「でも、一つ当たり税込み316円じゃとーまの財布じゃ足りないかも……」
「大丈夫だ。虎の子の三十二円がまだ入ってる。丁度632円、二つ返るさ……ア゛!?」
 不安げなインデックスを安心させるように財布から小銭を出してその額を数えた所で、上条の表情が硬くなった。
「631円、だと……!? あの時上条さんは1円玉が二枚あったのを確認してます事よ!?」
 その言葉とは裏腹に、心当たりを思い出して顔を真っ青にする。そう言えば、先行きの不安さを振り払う為に気合を入れようとした拍子に小銭をばら撒いていた。慌てて拾ったものの、1円だけ拾い損ねていたのだろう。ここに来て、ソーメンすらも変えない自分の不甲斐なさに上条は憤った。
「すまねえ、インデックス……せめてアンタの腹だけでも膨れさせてみせるさ。ここはソーメンとオニギリを二個ぐらい買ってだな……」
「あのー……」
 血の涙を流す勢いで小銭を握り締めていた上条の背後から、聞き覚えのあるようなないような女性の声が聞こえてきた。
 振り返ると、何処か見覚えのある顔に上条は首を傾げる。その女性はこの店の制服を着ており、このコンビニの店員である事は容易に分かった。
「えっと、昨日助けてもらったお礼をしたいんですけど、良いですか……?」
 どうやらその女店員は、昨日助けた女生徒だったらしい。
 値引きシールを手に首を傾げる彼女を前にして、良い事はしておくものだと、上条は心底そう思った。
 同時に、昨日あれだけ格好つけておいて今更格好がつかないことに対しては、気にしない事にした。

588 : とある幻想の一撃必殺[saga] - 2014/08/01 22:20:56.14 yomvIdKJo 8/8

8レスと思ったら7レスで終わった。
お目汚し失礼しました。

ふと思いついて3時間ほどせこせこ書いたものなのでつたない文章かもしれませんが、
感想などをいただけたら幸いです。